ITに巨額投資はもう必要ない/新生銀行Jメソッドチーム

Jメソッドはシステム開発費600億円を60億円に圧縮した新生銀行の手法。これが本当ならシステム開発業者は詐欺師?

通常600億円必要といわれる銀行のシステム。
本書は、その銀行システムを10分の1の60億円で開発した新生銀行のJメソッドについて書かれています。Jメソッドは新生銀行システム開発で用いられた手法の名称です。新生銀行のシステム部門トップのジェイ・デュイベディ氏によって発案されました。

従来の大規模システム開発は、開発期間が長く、開発費用が高いという問題を抱えます。Jメソッドは、開発期間と開発費用の問題を大幅に低減させることが大きなウリとなっています。

従来の開発手法は、業務の「手法(進め方)」に注目し開発を進めますが、Jメソッドは業務の手法には注目せずに、業務のインプットとアウトプットに注目します。
個々の業務は必ず、何らかの情報をインプットし、何らかの情報をアウトプットします。アウトプットされた情報は、部門間を行き来して業務が進んでいきます。

このアウトプットの精度が高ければ、アウトプットの方式にはこだわらないのがJメソッドのミソです。部門間で類似したアウトプットがあれば、できる限り統合します。アウトプットの書式が同じであれば、処理を統一することができます。

また、新規のシステムを積極的に作成しないのもJメソッドの特徴です。必要としている機能を満たすことができれば、社内ライブラリやインターネットに存在するプログラムを積極的に採用します。

このような統合と再利用によって新生銀行は、通常600億円かかるといわれている銀行業務のシステムを60億円で完成することに成功しました。
従来価格の10分の1です。おそろしい破壊力だとは思いませんか?

Jメソッドの哲学

Jメソッドは、柱となる大きな基本思想を持っています。
それは「システムは経営者のメッセージを顧客に伝えるものである」というものです。

システムを新規に構築するとき、現場主導になってしまいがちです。現場主導のシステムは部分最適になりやすく、必ずしも会社全体として正しい結果を導くシステムにはなりません。
また、現場の意見を無秩序に取り入れてしまう傾向があり、あまり使われることの無い機能のために莫大な費用がかかるということもあります。

システムの恩恵を受けるのは顧客です。その顧客に対して、どのようなサービス届けるのかを決定するのは、経営者の役目となります。
システムは最前線で顧客サービスを作り出すツールなのです。したがって、システムは経営者のサービス理念に基づいて作り出させるものでなければなりません。

システムは顧客のために構築されるものであり、その方針を決めるのは経営者の役目なのです。

Jメソッドの進め方

Jメソッドは次の5ステップで進められます。

  1. 変革の道筋と業務領域の設定
  2. 現状のモデル化〜ペーパーモデル〜
  3. モジュラー型モデルの改良
  4. モジュラー型モデルの導入とチェック
  5. 変革の達成度チェック
フェーズ1変革の道筋と業務領域の設定

取引のボリューム、商品ごとの売り上げ、経費、商品の種類、お客様のセグメントタイプとお客様の数などの業務に関する情報を収集し、資料化します。
本フェースの目的は現状の業務の概要を把握し、共有することにあります。

フェーズ2現状のモデル化 〜ペーパーモデル〜

システム化する範囲のインプット/アウトプットの資料を集めます。集めた資料は、大きな会議室などに業務手順に従い並べますて配置します。
本フェーズの目的は業務の流れと登場する資料を確認することにあります。また、このフェーズではシステムがクリアすべき目標(レスポンス、処理量など)の設定をおこないます。

フェーズ3モジュラー型モデルの改良
  1. ペーパーモデルの要素をインプット/アウトプットにつながりでとらえる
  2. 同じインプット/アウトプットを出す既存モジュールをコンポーネントライブラリやバザール(市場)から探して置き換える
  3. インプット/アウトプットの一致するソフトウェアがライブラリやバザールにない場合はさらに分解する
  4. 分解してもソフトウェアがない場合は作成する
  5. すべての要素をリンクし、モジュラー型モデルとする
フェーズ4モジュラー型モデルの導入とチェック

モジュラー型モデルを現場で稼働させ、不具合があれば修正して完成させます。

フェーズ5変革の達成度チェック

フェーズ2で設定したシステムの目標値をクリアするまでチューニングを行います。

すばらしい!でも本書はわからないことだらけ

従来の大規模システム開発は、ウォーターフォールと呼ばれる手法で開発されていました。ウォーターフォール型の開発は、盛り込むべきシステム機能の抜けや漏れが最小限に抑えられる長所はありますが、開発期間が長くなるという短所があります。
100億規模のシステム開発の場合、最低でも3年の開発期間が必要と思われます。

現代のビジネスはスピードが速く、3年の月日をかけて開発しても、完成時は社会状況や国際関係が大きく変わっている可能性があります。設計時には完璧だった仕様も実稼働時には陳腐化しているのです。

そういった意味で、業務の細部から作り上げることができるJメソッドは、現代にマッチしたシステム開発手法であると言えます。
そういって意味で、本書にはとても期待して読み始めたのですが、、、

基本哲学は大変のすばらしい。システムは経営者の戦略をかなえるツールであるという考え方は「ブラボー!」です。

しかし、実際の開発手法は、何を言っているのか?何をやっているのかがまったくわかりません。
まずは、用語の説明不足。バザールとは何でしょうか。たぶんインターネット上のオープンソース群を指しているのでは予測しますが、何のことかまったく説明がありません。

Jメソッドの一番熱い箇所はプログラムの開発部分ではないかと思います。フェーズ3の部分です。上記は本書で書かれた説明をほぼそのまま掲載しましたが、どのように開発が行われるのかチンプンカンプンです。

方法はまったくわからなかったのですが、インプット/アウトプットに注目するという手法やシステムをリプレイスして軽減されるであろう費用を新システムの開発費用にあてるという考えはすばらしいと思います。

本書の説明は、わからないことだらけでした。もう少し日本語の上手なライターの方に続編を書いてもらいたいと思う今日この頃なのです。

目次

第1章 脚光を浴びつつあるJメソッド
第2章 複雑システムの落とし穴
第3章 Jメソッドは組織を変える
第4章 Jメソッド導入のための5フェーズ
第5章 フェーズ1変革の道筋と業務領域の設定
第6章 フェーズ2現状のモデル化〜ペーパーモデル〜
第7章 フェーズ3モジュラー型モデルの改良
第8章 フェーズ4モジュラー型モデルの導入とチェック
第9章 フェーズ5変革の達成度チェック
第10章 結び