日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方/山本敏行

ECスタジオは、社員の満足度が日本で一番高い会社である。
「電話を置かない」、「営業を雇わない」、「社員全員にiPhoneを支給する」など、独自の制度で社員のモチベーションと会社の業績を向上させている。
ECスタジオでは、どのような制度をどのような考えで実施しているのだろうか。

社員第一主義

ECスタジオのモットーは「社員第一主義」である。
「社員が満足していない会社は、顧客を満足させることはできない」というポリシーのもと会社運営を行っている。

  • 会社運営の指針である信条(クレド)を「しないこと14ヶ条」として制定(次項参照)
  • 顧客を絶対優先としない ー 顧客の無理な要求を受け付けることで、社員が疲弊していく。また、顧客の無理な要求を受けるとコストに影響し、結果、顧客が損をすることになる
  • 給与を高く、勤務時間を短く − 実現するには高い生産性が必要となる
  • 怒らない − 怒られると萎縮し良い仕事ができない。「任して任さず」上司と部下が、ともに成長できる環境作りをおこなう
  • 女性社員が安心して働ける職場をつくる − 結婚、出産があっても勤務できる体制をつくる。寿退社は結果的に会社も損をする
  • 社員と会社の夢を一致させる ー 社員が会社のビジョンづくりに参画する
  • 全社員が経営を学ぶ ー 社員に外部の経営セミナーを受講させる。会社の経営状態や新規事業の採算性を理解してもらう
  • 社員モチベーション診断を受ける − 外部機関のモチベーション診断を受ける。組織に悪いところがあったら手遅れになる前に改善する
しないこと14ヶ条
  1. インターネットを活用できないことはしない − 資源の乏しい中小企業であってもインターネットでは、大企業と同等に戦える。ECスタジオは、インターネットを活用した事業を積極的に活用する
  2. 株式公開しない − 外部資本を入れると、出資者満足が優先される恐れがある
  3. 他人資本を入れない − 「株式公開しない」と同じ理由から
  4. 経営理念に共感していただける会社としか取引しない − 収益が見込める取引でも、理念の異なる企業とは取引しない(社員を不幸にする取引はしない)
  5. 経営理念に添わないビジネスはしない ー 「経済的豊かさ」「時間的ゆとり」「円満な人間関係」という理念をもち、その理念からは逸脱しない
  6. 特定の組織に所属しない − 外部組織の活動が入ると最も重要な自社の業務がおろそかになるため
  7. 社員をクビにしない ー 社員の個性や強みを生かすのが企業の役割
  8. 売上目標に固執しない ー 数字に固執すると社員が無理をして、顧客に迷惑をかける可能性があるため
  9. サービス向上に妥協しない ー 常に顧客の立場で、最高のサービスを提供する
  10. 守りに入らない ー クオリティの低いサービス、低くなったサービスを中止し、積極的な商品開発に努める
  11. 高価格なサービスは提供しない ー インターネットを利用したハイクオリティ・ロープライスなサービスの実現を目指す
  12. 会社規模を追求しない ー 規模が小さく身軽であれば、臨機応変にビジネスモデルを変えることができる
  13. 日本にプラスにならない事業はしない ー 世界中から最新情報を収集し、安価で効果の高い製品・サービスを日本に提供し続ける
  14. 日本市場にこだわらない − 日本から世界にサービスを提供する企業を目指す
顧客にサービスを安価で提供するための工夫
  • 社内に電話を設置せず、メールにて対応する
  • 営業職を設置せず、顧客に対する直接的な営業を行わない

社員満足度の向上

ECスタジオには、社員満足度向上のためのユニークな制度がいくつも存在する。
制度そのもののユニークさばかり注目が集まるが、大切なのは制度ではなく、制度が生まれた背景やその効果にある。

  • ランチトーク制度 − お昼の休憩時間に上司と社員が1対1でランチを取る制度。(普段では聞けない話をフランクに語り合う。毎月1回、部下の方からランチトークする上司を選ぶ。ランチ費用は会社負担)
  • ゴーホーム制度 − 社員の里帰り費用を会社が負担する制度
  • 強制退勤制度 − 21時以降は仕事ができない制度
  • ノートーク制度 − 毎日、ネットブラウズ・メール・チャット・話ができない時間帯を制定する(余計な情報が入ってこないため、仕事に集中できる)
  • iPhone支給制度 − 社員が契約するiPhoneに会社から月額6千円の補助金を支給(iPhoneの利用で仕事が効率的になるため)
  • 遣唐使制度 − 定期的に社員を他の拠点に派遣する(他拠点の業務の理解や良い制度を持ち帰るため)
  • バースデー制度 − 社員の家族や恋人の誕生日に食事代を支給
  • ブルーベリーアイ制度 − 目を使う業種なので、目の疲れを改善する「わかさ生活ブルーベリーアイ」を無償で支給
  • 食券制度 − 月額3500円まで昼食代が支給される(支給条件あり。栄養の行き届いた食事ができるよう)
  • 長期休暇制度 − 有給休暇を計画的に付与して、10日間の長期休暇を年に4回確保する

企業戦略

  • メディア戦略 − メディアの方から「取材したい、紹介したい」と言われるような話題性のある情報を提供する
  • 差別化戦略で存在価値を高める − 低価格、購入のしやすさ、納品までのスピード、カスタマーサポートで他社と差別化する
  • 情報を積極的に提供する − 情報は提供したものに集まってくる
  • 社内外のこだわりを徹底する − ECスタジオという名前にかけ、E(1)とC(4)にこだわった戦略をつくる(資本金1414万円、1人のリーダーに4人の部下など)
  • 社員数は40名まで − 1人の経営者が全体を見渡せる限界の人数
  • 自社の文化にあった人材を採用する − 応募から体験入社までに多くのフィルターをもうけ、自社の文化にあった人材の採用を行う
  • 盤石な財務体制をつくる − 会社の制度文化が良くても財務体質が悪くては倒産してしまう(粗利計算の工夫、キャッシュフローを重要視、コストの明確化など)

IT戦略

会社が利益を増やし続けるために必要な「売上を上げる」「生産性を上げてコストを下げる」「未来へ投資する」をECスタジオでは、どのように実現しているか。

売上を上げる
  • WEBサイトの積極活用 − WEBサイトは中小企業の重要な営業マンである。成果が出る投資、改善をおこなっていく
  • ブログを継続的に更新する − ブログは継続的に更新することで、さまざまなキーワードが蓄積され検索エンジンに検索されやすくなる
  • Youtubeを積極的に活用する − Youtubeの動画をアップすることで多くのユーザーに見てもらえる
  • Ustreamを利用してセミナーを受注する − Ustreamセミナーを中継することで、実際のセミナーの受注につながる
  • WEBサイトを継続的に改善する − アクセス解析ソフトを利用して、WEBサイトの状態を把握する
  • プレスリリースを打つ − テレビ番組へのプレスリリースは効果が高く、広告価値は数千万円から1億円程度の効果がある
生産性を上げてコストを下げる
  • 業務の仕分けを定期的に行う − 特定の業務が会社の利益に貢献しているかを見直す。具体的には2日ほど社員の作業の記録を取り、利益に貢献しない作業は見直す
  • 機会損失を防ぐ − 新たな出会いが生まれていたかもしれないチャンスを見逃さない
  • 利益を生まないコストは削減する − 家賃など直接的に利益に貢献しないコストは積極的に削減する
  • 仕事の環境に投資する − 仕事をする環境であるパソコンなどへの投資は怠らない、性能や使い勝手の良いパソコンの方が生産性が高い
未来へ投資する
  • 利益を生み出すかも知らないものに投資する − 立地が良くてきれいなオフィスや立派な社長室に投資するより、社員の給与を生み出す資源に積極的な投資をする(IT資産や広告など)
  • 積極的に種をまく − 製品には寿命があり、いずれは衰退していく。企業を永続するためには新しい収益を生み出す製品を常に探していく必要がある。外部との交流もそのひとつで、さまざまな会社と交流を持つことで新しい種の発掘になる