同じ失敗を繰り返すのはバカです。しかし、わたしたち日本人は、超ド級のバカでした。
名著「失敗の本質」の解説本です。
「超入門」というタイトルの通り、非常にわかりやすく「失敗の本質」を解説しています。
「失敗の本質」は名著ですが、大変に読みにくいのが難点です。読みにくい理由は、大きく分けて二つです。
ひとつ目は、各戦いの歴史的な背景が複雑であること、ふたつ目は登場する名称(地名、人名、武器名など)が覚えにくいこと。
歴史的な背景がわからないと「失敗の本質」はとても難解です。本書は、歴史的な背景を語らず、事例を現代の出来事に置き換えて説明しているので、スーッと頭に入ってきます。
これから「失敗の本質」を読んでみようという方は、まず本書から読み進むことをオススメします。本当にわかりやすいですよ。
本書は「失敗の本質」を7つの側面から解説します。戦略性、思考法、イノベーション、型の伝承、組織運営、リーダーシップ、メンタリティ。どれも現代に通じる考え方で、日本軍の敗北は、日本家電メーカーの敗北に近いものがあります。
日本軍の失敗のポイントは、次の3点に集約できます。
ひとつ目は、戦略を持たずに戦ったこと。ふたつ目は、ゲームのルールの変更に対応できなかったこと。三つ目は組織の硬直化です。
(1)戦略を持たない日本軍
開戦当初、日本軍は多くの局地戦で勝利を収めます。しかし、個々の勝利で得たものは、現場部隊の消耗だけで、次の戦いの勝利につながるものではありませんでした。日本軍は大きな戦略を持って太平洋戦争を戦ったわけではなかったのです。
本書は、日本の敗戦を理由を戦略がなかったからと言い切ります。
戦略とは、いかに「目標達成につながる勝利」を選ぶか考えること。日本人は戦略と戦術を混同しやすいが、戦術で勝利しても、最終的な勝利には結びつかない。
そして、戦略を「戦略とは追いかける指標のことである」と定義しています。
勝利につながる「指標」をいかに選ぶかが戦略である。性能面や価格で一時的に勝利しても、より有利な指標が現れれば最終的な勝利にはつながらない
日本軍は戦略を持たずに太平洋戦争を戦い、負けるべくして負けたのでした。
(2)ゲームのルールを変える
日本軍は軽量化した「ゼロ戦」を最大の武器に、空中戦で連戦連勝を収めます。ゼロ戦の戦い方は、急旋回して相手の背後を取り、後方から攻撃すること。
この戦い方がある限り、日本軍の不敗伝説は永遠に続くはずでした。
しかし、米軍はゼロ戦の長所を完全に消し去る作戦を立案します。
ひとつ目の作戦は、戦闘機は2台ペアで行動すること。2台ペアになることにより1台が後ろを取られても、もう1台がゼロ戦を打ち落とすことが可能です。
もうひとつは、非接触ミサイルの導入です。
高速で小回りのきくゼロ戦に直接ミサイルを命中させることは困難です。そこで、導入されたのが非接触型のミサイルでした。電波を出し、ゼロ戦が近くに来ると爆発する。命中せずともゼロ戦を破壊することに成功するのです。
米軍は、高性能なゼロ戦に対抗する手段を、高性能な戦闘機を開発して空中戦を有利にするという作戦をとりませんでした。
米軍の取った行動は「ルールを変える」ことです。相手が有利な領域には踏みいらずに、別なルールを作り出し、その領域で戦うこと。
つまりは、こういうことです。
米軍は達人を不要にする「システム思考」によって戦闘方法を転換させましたが、具体的には、相手が積み重ねた努力と技術を無効にするのを理想としています。
日本軍が積み重ねた努力は、水泡に帰すのでした。しかし、日本軍はルールが変わったことを無視し、さらなるゼロ戦の高性能化を目指します。
(3)空気の醸成と組織の硬直化
トップダウンの日本軍はシステム不全を起こし、自滅していきます。
敗戦の最も深刻だった原因は、組織の上層部が戦局を正しく理解していなかったことにつきます。自分たちは正しい、日本が負けるわけがない、という盲目的な思い込みが、組織に不穏な空気を醸成していくのです。
日本軍上層部トップの失敗は、次の3点に集約できます。
- 現場の軽視 ー 日本軍のトップは現場で起こっていることをわかっていると勘違いし、現場からの意見をまったく聞きません
- イノベーションの無視 ー 開発途中の電子レーダーを馬鹿にし、弱者の戦法と見向きもしませんでした
- 空気の醸成 ー いつわりの正論を振りかざし、組織内に意見できない雰囲気を作り出します。
硬直化した組織が、正しく方向修正できなかったことは言うまでもありません。
失敗は生かされなかった
このようにして、太平洋戦争は悲劇的な敗戦を迎えることになります。この敗戦は、日本人に多くの教訓を残してくれたはずでした。
戦後日本は、奇跡的な経済成長を遂げます。
好循環のレールに乗っているときは、問題点は成長にかき消され、問題ではなくなっていきます。しかし、好循環のレールから外れると、日本というシステムは迷走をするようにプログラミングされているようです。
2012年、パナソニック、ソニー、シャープの3社は、合計で1兆5千億円の赤字を計上しました。主な原因はテレビ事業の凋落です。韓国勢の追い上げを考えたとき、こうなることは明白の事実だったはず。なぜ彼らは、テレビ事業から撤退できなかったのでしょうか。
本書は、日本軍の特徴として「型の継承」を挙げています。これは、過去の成功体験から行動方式を導く方式です。型にはまれば強い戦法ですが、型にはまらない場合は、無残な敗北が待っています。
パナソニック、ソニー、シャープの3社は過去の成功の呪縛から逃れることはできませんでした。
一方、家電への依存を大幅に減らした日立と東芝は、大幅な増益という結果になりました。これはしっかりと戦略を立て、そこに向かって進んだ結果と言えるのではないでしょうか。
消費税増税、原発の再稼働。現在の政府は「国民に約束したことをやらず、約束しなかったことをやる」という許しがたい暴挙にでています。
戦略なき、出たとこ勝負の戦術は、敗戦という悲惨な結果を国民にもたらすのです。
目次
序章 日本は「最大の失敗」から本当に学んだのか?
第1章 なぜ「戦略」曖昧なのか?
第2章 なぜ、「日本的思考」は変化に対応できないのか?
第3章 なぜ、「イノベーション」が生まれないのか?
第4章 なぜ「型の伝承」を優先してしまうのか?
第5章 なぜ、「現場」を上手に活用できないのか?
第6章 なぜ「真のリーダーシップ」が存在しないのか?
第7章 なぜ「集団の空気」に支配されるのか?