マネジメント[エッセンシャル版] -基本と原則/P・F・ドラッカー【その3】

現代社会において企業やマネジャーが、どのような役割を持ち、どのような責任で、どのような行動をするべきかが記された書籍である。
本書は、重要な概念が多いため、本書内のパートごとにまとめを作成した。

【Part1】マネジメントの使命 | 【Part2】マネジメントの方法 | 【Part3】マネジメントの戦略

目次 − 【Part3】マネジメントの戦略

トップマネジメント

トップマネジメントの役割

トップマネジメントの仕事は多岐にわたる。

    • 事業の目的を考える − われわれの事業は何か、何であるべきか
    • 基準を設定する − 組織全体の規範を定める
    • 組織を作り、それを維持する − 組織の精神をつくる
    • トップとしての渉外
    • 各種行事・イベントへの参加
    • 重大な危機に際しては自ら出動し陣頭指揮を執る
取締役会の機能

取締役会は次の役目を負う。

    • トップマネジメントのサポート
    • トップマネジメントの交代
    • 渉外のための機能

マネジメント戦略

起業はその規模によりマネジメントとの方法が異なる。

小企業のマネジメント(最大15人程度)

小企業においては、ニッチ分野を見つける。
多くの小企業は機会中心ではなく問題中心に運営を行うため小企業は成長しない。小企業においても機会を中心とした事業展開を行う必要がある。

    1. われわれの事業は何か、何であるべきかを問い、答える
    2. トップマネジメントの役割を組織化する
中企業のマネジメント(最大50人程度)

中企業は、持てる資源のすべてを成功の基盤になっている分野を確保する。そうでない分野は抑制と禁欲が必要である。

大企業のマネジメント

原則として、小さな事業、成功しても中くらいの事業にしか育たないものは手を出さない。

多角化のマネジメント

企業が多角化に成功するには、市場、技術、価値観の一致が必要である。多角化には、(1)内的、(2)外的な要因がある。

(1)内部の問題
    • 同じことを繰り返すと飽きる、新しいことを試み続ける必要が発生する
    • 規模の不適切さ − 新しい分野への進出は、リスクが発生するので、収益と費用を考え的確かどうかを判断する
    • コストセンターの収益化
(2)外部の問題
    • 一国の経済規模 − 自国の経済規模に限界が生ずる場合
    • 市場の倫理 − 企業のグローバル化
    • 技術 − 技術が新しい技術を生み事業が多角化する
    • 税制の問題 − 資本家へ資本を還元するより、事業へ再投資する方が税制が優遇され、多角化事業に再投資する
多角化におけるドラッカーの法則

「うまくいかなくなりそうなものは、いずれうまくいかなくなる」というマーフィーの法則がある。
ドラッカーの法則においては、「何かがうまくいかなくなると、すべてうまくいかなくなる。しかも、同時に」となる。
多角化においては、複雑さが進むと突然破綻が発生する。

イノベーション

イノベーションは現代企業に絶対不可欠なものである。イノベーションは、科学や技術ではなく価値である。イノベーションは、常に市場に焦点をあわせていなければならない。
イノベーションを行う企業は、共通して次の特徴を有している。

イノベーションの戦略を実施する際も「われわれ野事業は何か。何であるべきか」を真剣に問わねばらない。
具体的には、「古いものを体系的に捨てる」、「明日を守るために時間と資源を使わない」ことであり、その目標値は常に高く設定する必要がある。

イノベーションの組織

イノベーションの探求を行う部署は、既存事業から切り離して組織しなければならない。

結論

社会においてリーダーとしての役割を果たすには、本来の成果を上げるだけでは不十分である。社会から正しい存在として、その正当性が認知されなければならない。
組織は、働く人ひとりひとり、社会のひとりひとりに対して、何らかの貢献を行わせ、自己実現させるための手段である。マネジメントを基盤とする正当性は、これらが正しく行われたときに認知される。

おまけ

本書で謳われている内容は、実際のマネジメントの方法論ではなく、マネジメントにおける概念である。そのために、とらえ方が難しく、直接的な行動に置き換えられないため、難解にみえてしまう。
私見であるが、本書で押さえるべき重要なキーワードは、以下の3点に集約できると考えている。

  1. 積極的に貢献する
  2. 真摯に対応する
  3. リスクを冒す

本書内の詳細な概念について深く理解できなくとも、企業で働くものすべてが、上記のキーワードを意識して行動するだけで、その企業の「生産性」は大幅に向上するはずである。

1. 積極的に貢献する

ドラッカーは本書内で、何度となく「われわれは何であるか。何であるべきか」を自らに問えと主張している。
この問いに対して、企業が出す答えは、常に「社会や消費者に対してどのような貢献をするか」ということである。
社会に対して貢献することで、企業は社会の一員となり消費者の信頼を勝ち取ることができるのである。

これは、企業内の働き手も同様である。ひとりひとりの働き手が、「わたしは何であるか。何であるべきか」を自身に問いかけ、会社に対してどのような貢献ができるかを考えねばならない。
企業側も、働き手のひとりひとりが、仕事に貢献できるよう、環境づくりと心配りを実践しなければならない。

2. 真摯に対応する

本書では、多くの箇所に「真摯」という単語が登場する。
真摯とは、

まじめで熱心なこと。また、そのさま。
Yahoo!辞書」より

をいう。
本書内においては、その概念の実行において「真摯さ」が行動の絶対条件になるものが多く登場している。

    • 仕事に対してやりがいを与える
    • 社会的影響を処理する
    • 自らに能力のない仕事を引き受けない
    • 何が正しいかより、誰が正しいかを重視する人間をマネジャーに任命しない

企業や人が社会活動を行う上において、コミュニケーションを行う相手がいない、ということはあり得ない。
企業が活動を行う上で、従業員が生産活動を行う上で、貨幣を伴う交換行為が発生する。この時の交換行為は、必ず「等価」であるという原則が必要になる。

消費者は、購入製品やサービスの購入代金を払い、企業は従業員に給与を支払う。
提供するものと購入するものの間に、不正やごまかしが発生すると、その信頼関係は崩れ、関係の復旧は困難になる。これはお互いにとって、大きな損失であることは間違いない。

信頼関係を常に良好に保つには、「真摯さ」が絶対無二の条件となるのだ。
ごまかしや不正で得た利益は、それ以降に発生するであろう損失と比較すると、微細なものなのだ。

3. リスクを冒す

ドラッカーは、企業活動からリスクを取り除くことは無駄であるだと主張する。そもそも経済活動とは、保有している資源を不確実な未来に投入することであり、確定的な事実の上での活動ではないという。

リスクが取り除けないのであれば、正しいリスクが何かを判断することが必須になる。
従来の経営手法においては、リスクを最小化することが推奨され、リスクを冒すことは無謀であるとされていた。

ただ単に利益を出すのであれば、企業はリスクの低い金融投資を行えばよい。ただし、この活動には社会的なイノベーションや社会的な貢献はない。
企業は社会の一部であり、社会的な貢献を果たす機関である。

ドラッカーは、本書内でマネジャーの役割は「投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである」と主張している。
小さな資源から大きな収穫を得るには、リスクを取ることが必須となる。イノベーションや社会貢献のために冒すリスクを恐れてはいけないのである。

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