哲学思考トレーニング/伊勢田哲治

タイトルの先頭に哲学というキーワードが登場するので、思考実験などを難しい言葉で論じているような印象を覚える。しかし、本書は哲学的な観点からクリティカルシンキングをわかり易い言葉で論じている。

クリティカルシンキングとは、特定の主張を批判的な立場で判断し、その主張の妥当性を探る思考法だ。それなり量の本を読んできたつもりであるが、クリティカルシンキングのみを取り上げた書籍を読むのは本書が初めてだと思う。

哲学とは、答えのない課題を延々と考え続けるあまり、誰かと交わることを嫌い、孤高の人を作り出す廃人製造装置的な学問だ。
哲学が「考えることを考える」学問であるから、クリティカルシンキング的思考はお手のものなのである。

本書は、哲学的なエッセンスを用いてクリティカルシンキングを学びましょう、というスタンスをとっているので、眉間にシワを寄せることなく、比較的柔和な表情で読み進むことが可能だ。

本書で論じていることはざっくりと以下の三つに分けることができる。


クリティカルシンキングとは、正当な議論をするということである。哲学で言うところの議論とは一般で言われる議論とは異なり、「主な主張(結論)」、「理由となる主張(前提)」、「前提と結論のつながり(推論)」で構成される。

正しい議論をするのは、間違いのない前提と、理論的に正当な推論、前提と推論から導かれる結論が必要だ。

クリティカルシンキングを行うには、次の三つの要素をハッキリさせて、その関連に矛盾がないようにすれば良いのだ。

  1. 議論の明確化
  2. 前提の検討
  3. 推論の検討

前提と推論を検討して友の妥当ということであれば、導かれた結論も正しいということなのである。

また、これら三つの要素は反証にさらされ、反証に内容を否定をされてはならない。

クリティカルシンキングを行う際には、利用する言葉の定義を厳密に行う必要もある。利用する言葉に複数の意味があったり、受取り手によって意味の解釈にブレがあっては、導かれた結論が、受取り手によっては正しくないこともあるからである。

クリティカルシンキングとは、結論を頂点に、正しい前提、明確な推論、理論的な反証、定義された言葉から構成される。

本書は、多くの例とわかり易い言葉を用いて説明しているので、頭を悩ますことなくクリティカルシンキングの原理を学ぶことができる。
論理的な思考を身に着けたいと考えている人には、最初に読んでいただきたい書籍だ。

哲学思考トレーニング (ちくま新書 (545))

哲学思考トレーニング (ちくま新書 (545))