武器としての決断思考/瀧本哲史

作者の紹介

瀧本哲史。京都大学客員准教授、エンジェル投資家。
東京大学卒業後、助手となるもマッキンゼーに転職する。3年で独立して経営コンサルタントを起業。現在はエンジェル投資家のかたわら京都大学で意思決定理論、起業論、交渉術の授業を担当する。

本書の内容

将来を予測できない現代で、私たちが優先的に身につけるべき武器は、意思決定の方法である。本書は、ディベートの具体的な方法を通して、意思決定の方法論を学ぶ。

本書まとめ

1)意思決定を学ぶ意味

変化が激しい現代では、これまでの価値観や方法が意味をなさなくなる。誰かが作ったルールの上でただ働くだけでは社内の奴隷になる。そんな現代人が生き抜く為に必要な知識は「教養」である。
教養の中でも、意思決定は優先的に身につけるべき技能だ。なぜなら、現代は自分で考え、自分で決めて、行動することが、あらゆる場面で増えるからである。

2)ディベートとは

ディベートは意思決定を行うための具体的な方法。賛成意見と反対意見をもつ両者が意見を戦わせ、取るべき最適な方法を選択する手法である。
この方式を学ぶことで、「個人の意思決定」に役立てることができる。理論的に取るべき手法の中から、最適解を導き出すことで、「好き嫌い」や「得手不得手」という主観での意思決定を排除できる。

3)意思決定で行ってはいけない判断方法
  • 慣れていることを重視する
  • 限られた情報や枠組みで考えてしまう
  • サンクコスト(過去の投資)を重視する
4)ディベートのルール
  • 特定の論題について議論する ー より具体的に
  • 反対側と賛成側に分かれる ー 中立の意見はない
  • 話す順番、発言時間が決まっている ー 賛成・反対、平等に
  • 三者を説得する ー 論破はNG
5)論題の決定方法
  • 二者択一になるくらい具体的なものを選ぶ
  • 議論に値するものを選ぶ
  • 明確に結論が出るものを選ぶ

最終的に出た結論で「その結論で得た行動を実行する」ができるくらいに、命題はより具体的により詳細にする。

5)賛成側はメリットを主張

賛成側はメリットを提出して、デメリットを上回ることを目指す。メリットが成立留守には以下の3条件が必要。

  • 内因性(何らかの問題があること)
  • 重要性(その問題が深刻であること)
  • 解決性(問題がその行動によって解決すること)

具体的な例として本書では以下の文が紹介されている。

「日本の原子力発電所は、大地震が起きると大爆発する可能性がある。周辺地域の放射能汚染を防ぐために、原発を全廃すべきだ」

内因性は「日本の原子力発電所は、大地震が起きると大爆発する可能性がある」、重要性は「大爆発が起きると、周辺地域が放射能汚染される」、解決性は「原発を全廃すれば、大爆発を防ぐことができる」となる。

メリットを考える際は、次の2点に注意する。

  • すでに解決している問題や、放置すれば解決する問題はNG
  • 重要性は「なぜ問題なのか」「どう問題なのか」を説明できるようにする
6)反対側はデメリットを主張

デメリットの3条件はメリットの裏返しとなる。

  • 発生過程(論題の行動をとったとき、新たな問題が発生する過程)
  • 深刻性(その問題が深刻であること)
  • 固有性(現状ではそのような問題が発生していないこと)

具体的な例として本書では以下の文が紹介されている。

原発を全廃すると、その分を他の発電所で補わなければならなくなる。しかし、他の発電所では原発の電力を補いきれないため、電力が多く消費されたときには大規模な停電が発生する可能性が高い。停電による経済的な損失を防ぐために、原発の全廃はやめるべきだ」

発生過程は「原発を全廃すると、その分を他の発電所で補わなければならなくなる」、深刻性は「他の発電所では原発の電力を補いきれないため、電力が多く消費されたときには大規模な停電が発生する可能性が高い。そして停電が発生した際は経済的な損失が大きい」、固有性は「現在は原発を全廃していないので、大規模な停電は起きていない」となる。

7)反論する

反論は、メリット・デメリットの3条件に対して行う。
メリットであれば

  • 内因性は、問題が無いこと
  • 重要性は、問題が深刻では無いこと
  • 解決性は、問題がその行動によって解決しないこと

デメリットは

  • 発生過程は、新たな問題が発生しないこと
  • 深刻性は、問題が深刻でないこと
  • 固有性は、すでに問題が発生していること
8)議論の判定

メリット、デメリットの反論を行った結果、反論にさらされながらも残った意見が「正しい主張」になる。正しい主張は次の3条件が整っている。

  • 主張に根拠がある
  • 根拠が反論にさらされている
  • 根拠が反論にたえた

判定は、論拠の優劣を競うものであり、「誰が言ったか」はいっさい関係ない。また、結論の内容以上に「結論にいたる道筋」が重要である。
あくまでも、ここで得た結論は「最適解」であり、正解ではない、時間の経過などで、条件などが変わったら、再度「最適解」を求める必要があるかもしれない。