手品のタネを知ったところでわたしたちは手品師になれない。ザッポスの運営を知ったところでわたしたちにザッポスを創ることはできない。
ザッポスは、アメリカのオンラインショップです。
オープン当初は靴の販売を主体にしていましたが、現在は洋服やアクセサリーなども販売します。年商は10億ドル超。起業して10年程度の歴史の浅い企業ですが、2011年のフォーチューン氏が選ぶ「働きたい企業ベスト100」で15位に選出されました。
ザッポスは米国のみならず、さまざまな国の起業家から注目を集めています。その理由は、ユニークな企業文化から生み出される高い顧客満足です。
本書は、ザッポスの企業文化と人材育成に注目し、高い顧客満足を生み出す要因に迫ります。
本書のポイント
コアバリュー
ザッポスという会社を理解するには、まずザッポスが掲げるコアバリューを理解する必要があります。コアバリューはザッポスのアイデンティティであり、コアバリューを中心に企業運営が行われます。
コアバリューは以下の10項目です。
- サービスでワオ!を提供する
- 変革を受け入れ、推進する
- 楽しくてちょっとイカレたサービスをことをつくりだす
- 冒険し、創造し、心を開け
- 成長と学習を怠るな
- コミュニケーションを通じて、開かれた正直な関係を築く
- 前向きなチーム&ファミリースピリットを持つ
- 少しの努力で多くをやりとげる
- 情熱と決断力を持て
- 謙虚であれ
社員は、コアバリューが徹底できるかが会社の成功の証であると教えられます。
人材の採用
ザッポスの新入社員は、CLT(カスタマー・ロイヤルティ・サービス)研修を1ヶ月もの長きにわたって受講します。この1ヶ月間でザッポスの文化を徹底的に学習します。
ザッポスが特徴的なのは、この研修が終わってからです。
研修が終わると新入社員は4000ドルを受け取ってザッポスを去るか、このままザッポスに残るか決断を迫られます。ここで、新入社員が4000ドルを受け取ってザッポスを去れば、会社にとって損害が発生しますが、長期的に考えた場合、自社文化に合わない人材を採用するよりも被害は少ないと考えるのです。
4000ドルもの大金を渡すのは、判断を曇らせないためです。4000ドルがあれば、次の就職活動も余裕を持って行えます。
ザッポスは、短期的に損失を被っても、自社文化に完全フィットする人材を求めます。コアバリューを実践できるスタッフが自社を繁栄に導くと考えるのです。
細部へのこだわり
ザッポスのWEBサイトは、「看板に偽りなし」の姿勢を貫きます。顧客に正確な情報を伝えるために努力を惜しみません。商品説明文、写真はWEBサイトへの掲載前に細かくチェックされます。
購入商品が、ディスプレイで確認した商品の色と異なるという理由で返品された場合は、サイト商品の色を確認して写真を撮り直すという徹底ぶりです。
当たり前のことを当たり前に実践する。簡単なようですが、徹底的に実践するのは、忍耐力が必要です。
コミュニケーションと情報の可視化
ザッポスでは、毎月社員の幸福度調査を実施しています。調査であがってきた疑問には丁寧に対応します。また、トップのメッセージや売り上げの速報値も隠さず共有されるのです。
大切なのは、コミュニケーションが可視化されていることです。すべての情報が差別なしにアクセス可能で嘘偽りがない。また、トップとのコミュニケーションを誰もが取ることができる。
コミュニケーションと情報をオープン化し、可視化を行うことで、スタッフは自社が今どのような状況にあるのかを容易に理解できるようになります。また、多くの情報から自分自身が何をすべきか、何ができるのかを考えることができるようになるのです。
感想など
ザッポスの創立は1999年。企業後たったの12〜13年で10億ドル企業となりました。
本書は、短期間で大企業に登りつめる一般的な方法論は書かれていません。本書に書かれたことを徹底的に真似をしたところでザッポスと同じ企業はできないのです。
それは、手品のタネを知ったところで、わたしたちが手品師になれないのと同じことです。
ザッポスのビジネスモデルは、さまざまな起業家に大きなインスピレーションを与えました。
日本においても、ザッポスのビジネスモデルを意識したと思われるロコンドが誕生しています。ロコンドが今後どのような成長を見せるかは、予想できません。しかし、現在のロコンドの評判を聞く限りにおいては、日本のザッポス的存在となることは困難なようです。
ザッポスの成功要因は、感性の伝達にあるのではと考えます。ザッポスのCEOであるトニー・シェイの感性を理解できる人だけが集まり、トニー・シェイの理想世界を作り上げる。
ザッポスとはそんな企業です。
本書は、ザッポスの運営にフォーカスを当て解説しています。なぜ、このような企業スタイルになっていったのかまでは、深く触れていません。
ザッポスという会社のスタイルが作り上げられる過程については、トニー・シェイ著の「ザッポス伝説」を一読されることをお勧めします。
目次
- 序文
- 第1章 ザッポス?それ何?
- ザッポスのビジネス法則1 パーフェクトフィットを目指せ
- 第2章 すべては文化に帰結する
- 第3章 文化にエネルギーを注ぎ込む
- ザッポスのビジネス法則2 迅速で手間いらずのサービスを
- 第4章 手間を減らせば顧客は増える
- 第5章 スピード、知識、リカバリー、サプライズ
- ザッポスのビジネス法則3 パーソナルに踏み込め
- 第6章 顧客は歩く財布じゃない
- 第7章 あらゆるレベルで結びつく
- ザッポスのビジネス法則4 S T R E T C H
- 第8章 ザッポス大学
- 第9章 シューズを越えて
- ザッポスのビジネス法則5 勝つために遊ぶ
- 第10章 よく遊べ
- 第11章 R・O・F・L
- まとめ 終わりと始まり
- 作者:ジョゼフ・ミケーリ
- 発売日: 2012/05/08
- メディア: 単行本