若き友人たちへ/筑紫哲也

「憂う」ことは未来を生み出す力。今、自分がいる場所が理解できなければ「憂う」ことはできない。

ジャーナリスト筑紫哲也さんは「憂う」ひとでした。
「憂う」とは、心配すること、思い悩むこと。特に、将来について気がかりな場合に憂うという表現を使います。

筑紫さんは、ご自身が長年アンカーを務められたニュース23を筆頭に、さまざまなメディアで「憂い」を伝えてこられました。筑紫さんは日本の将来を憂い、その日本の将来を担う若者を心配していました。

「若き友人たちへ」は筑紫さんが残した最後のメッセージです。
本書は、集英社の刊行PR誌「青春と読書」に投稿した二つの原稿と早稲田大学立命館大学で行った講義を書籍にしたものです。

筑紫さん最後のメッセージは、これからの日本を担う若者に向けられています。日本人、戦争、ジャーナリズム、政治、、、本書で語られる筑紫さんの憂いは多岐に渡ります。このままで良いわけがない。このままでは終わってしまうと。
日本がこの閉塞感から抜け出すにはどうすれば良いか。筑紫さんは「自分の頭で考える」ことが重要であると説きます。

総務省が平成18年に発表した調査(※1)によると、平成8年から平成18年までにわたしたちか取得できる情報量は530倍になっているそうです。これだけ情報量が増えると、どの情報が本当なのか。どの情報を選ぶべきかがわからない。
流行っている情報を知らないと、時代に遅れていると不安になる。時代に適応しようとすると、情報の洪水で溺れてしまうことになるのです。

情報の洪水で、溺れ死にしないためには「知の三角形」を持つことが必要と筑紫さんは言います。
「知の三角形」とは、情報(infomation)、知識(knowledge)、知恵(wisdom)が作る三角形のことです。この三角形が歪まずに正三角形になることで、正しい判断ができるようになるのです。

現代人の多くは、情報の辺が異常に長い、いびつな三角形を持っています。これを正三角形にするには勉強をして知識を得る。そして知識を体得することで、知恵に昇華させるのです。
正三角形にすることで、一方的にメディアに誘導されることなく、正しい判断ができるようになるのです。

2008年に筑紫さんはお亡くなりになりました。すでに4年の月日が経っています。この4年で日本は政権交代を体験し、東日本大震災を体験し、原発事故を体験し、そして今、政治の危機的な状況を体験しています。
この間、多くの知識をわたしたちは得ました。この先、この知識を知恵に昇華させることはできるのでしょうか。

目次

第一章 まず憲法について話してみよう
第二章 そもそも日本人とは何か
第三章 二つの日本人論を読む
第四章 沖縄から何が見えるか
第五章 さまざまなメディアを歩いてみよう
第六章 雑誌と新聞をめぐる私的ジャーナリズム論
第七章 国家、この厄介なるもの
第八章 教育こそが国の基本である
第九章 「知の三角形」という考え方
第十章 この国がおかれている現実を見つめる
第十一章 そして、この国の行方は・・・・・