「買いたい!」のスイッチを押す方法/小坂裕司

脳は不況を知らない。
人間の購買心理は好況や不況に関係なく、モノを購入したいという意思を持っている。
本書は、脳科学としての見地から購買のメカニズムを解き、どうすればモノが売れるようになるのかを説く。

脳は不況を知らない

「買う」までには2つのハードルがある
  1. 買いたいか、買いたくないか(マインド) − 感情は理性に勝る
  2. 買えるか、買えないか(リスク) ー 不況になると高くなるのハードル
「買いたい」のスイッチを押すものは
  • 物欲のドーパミンが出るか ー 人はある機会を得ると、一連の動きを決める。つまり、動機が喚起されれば「買う」という行動に走る
  • 情報が買うかどうかのカギ ー 脳は基本的にすべて買い物に対してNGを出す。NGがOKに変わるのは、脳が許可できるだけの情報を売り手が与えられるかによる

脳はこうして買い物をする

購買における意志決定プロセスは次の2つのプロセスを経る。

  1. 買うかどうか検討 ー どうすれば買えるかを考える
  2. どれを買うか検討 − いったん購買を決定したら、どこでどれを買うかを考える
五感を刺激する

購買を決定するのは理性だけではなく、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚も重要な役割を果たす。
情報は五感を通じて脳に入ったとき、脳に大きな影響を与える。その結果として、購入するという動機が喚起される。

安さは決め手にならない

売るために安くしなければならないという理論は間違っている。
安さだけが、購買の意思決定をつかさどるものではない。安さより重いおもりは存在する。たとえばそれは、「このブランドが好き」や「このお店が好き」という思いだ。

感性情報×購買行動モデル
  • 感性情報とは ー 「感性」に影響を与え「買いたい」とのポジティブな感情を生むことのできる情報
  • 購買行動モデル − (感性情報の発生)→「五感を刺激」→「動機付け(動機付けされない場合は脱落)」→「意志決定プロセスの起動(購買決定されない場合は脱落)」→「購買行動」→(売り上げ)
売れないときはこう考える

「感性情報」×「購買決定モデル」のどこで問題が生じているのかを考える。

消費志向の多様化への処方箋

動機付けから買うに至る一連のプロセスが引き起こされれば、多様性は凌駕されるコトがしばしばある。

モノを買わない脳、「私」を買う脳

消費者は未来の自分を買う
結婚したいからおしゃれをする

Havingの消費からBeingの消費へ
  • Having ー ものを所有すること
  • Being ー 存在そのものの価値感覚や生きがいといったもので、満足して生きる基本的な部分

「そうそう、こういうの探していたんだよね!」という「わくわく感」のある買い物がBeingにつながる感覚である。(この感覚をフルフィルメントと呼ぶ)

今と未来をチューニングする

自分のBeingにつながるものに出会ったときにフルフィルメントを感じる。そしてドーパミンシステムも作動し、未知の体験に向かって購買の意欲が増加する。

モノを売る時代の終わり

モノやサービスを提示するだけで売れる時代は終わった。これからは、未来を売る行為の中にモノやサービスを埋め込み、魅力的なシナリオを示し、お客さんを買う気にさせる必要がある。

購買行動を創り出すマーケティング

売れない椅子を売る

次のコピーを店内に掲示することで、年に1脚か2脚しか売れなかった椅子が爆発的に売れるようになった。

いや〜、もう、読書するならこの椅子やと思いましたネ!

人生観が変わったよ、あの椅子

売る実践メソッド
  • 消費者の感性に影響を与え、行動を引き起こし、その結果売り上げを創り出す
  • 購買行動デザイン ー 顧客が購入までにしてもらいたい行動を可視化する(購入検討などもプロセスに入れる)
  • キービヘイビアの発見 ー -お客さんに任せると、してはくれない行動を意識的に働きかける(たとえば椅子なら座ってみたくなる)
  • 感性情報デザイン ー 買い手の感性に働きかけて、購入の動機付けを行う
  • ミラーニューロン ー 人の行動を見ただけで動機付けさせられる
一日千個売れたプリンの謎

とあるスーパーで普通のプリンが1日1000個売れるようになった理由は。

  • 発注ミスで大量にプリンが到着した
  • どうすれば売れるか考えて、派手なポップを創った「テレビチャンピオン 『プリン王』が作ったプリン」と
  • 噂が噂を呼び「あのプリン」「例のプリン」で飛ぶように売れるようになった

脳の二つの回路を磨く

直感回路と共感回路

マーケティング能力を磨くには嗣ぐの2つの回路を磨く。

  • 直観回路 ー 本質的にモノを見抜く、過去の事例から学ぶ、自分でも自分のビジネスの現場で実践を繰り返す、買い手の購買行動を鋭く観察する
  • 共感回路 ー 他者とコンテクストを共有し、共通感覚を醸成する
美徳の経営

美徳の経営は、直感回路と並んで磨くべき重要な回路について述べられている。

  1. 善悪の判断基準を持つ能力
  2. 他者とのコンテキスト(文脈)を共有し、共通感性を醸成する能力
  3. 特殊なコンテキストの特質を察知する能力
  4. 特殊なコンテキストを言語や観念で再構成する能力
  5. 概念を共通善(判断基準)に向かってあらゆる手段を巧みに使って実現する能力
  6. 賢慮を育成する能力