ヒッグス粒子をインクジェットプリンタで打ち出したら、何もないところから物体が作成できちゃう(かも)
家電量販店で販売されるインクジェットプリンタは、コモディティ化が進み低価格化が加速しています。すでに枯れた技術になりつつあるインクジェット技術ですが、他分野への技術移転が進み「凄い」ことになっています。
「インクジェット時代が来た!」は、最先端のインクジェット技術についての紹介書籍です。著者はインクジェットコンサルタントの山口修一氏とライターの山路達也氏。
今ではコモディティ化し、どの家庭も所有するインクジェットプリンタ。この技術を応用することで世界が変わるイノベーションを起こすことが可能になるのです。
インクジェットプリンタは、タンク内のインクを特定の場所に吹き付けることで、印刷物を完成させます。インクを吹き付ける方式は、インクに熱を加えて吹き付けるサーマル方式とスポイトから押し出すように吹き付けるエピゾ方式があります。
インパクト式のプリンタやレーザー式のプリンタと比較すると、機械的な装備が少ないため、寿命が長いこと、コストが安いという長所があります。
高精度な印刷が可能なインクジェットプリンタですが、機構はいたってシンプルです。最も機構が複雑なインクヘッド部は、交換のたびに新しくなるので、長く使っていても印字精度は一定です。
インクジェットプリンタの機能を転用し、さまざまな業界でイノベーションが起こっています。インクジェットで起きるイノベーションの着眼点は、インクを吹き付ける対象の変化とインクの変化です。
顔料と吹きつけ対象が変わるだけで、今まではできなかったモノ(コト)が可能になるのです。インクジェットの機能は、疲弊している日本の製造業を救う技術になるかもしれません。
印刷対象の変化
一般的にインクジェットプリンタは、紙に対して出力をします。吹き付ける顔料を変更することで、さまざまなモノに対して印刷が可能になっています。
本書では、食品への印刷、医療への印刷、家の外壁への印刷がインクジェット技術の転用業界例として紹介されています。まあ、一般的な応用です。
インクジェットプリンタの基本機能は、決まった場所にインクを吹き付けることです。吹き付ける高さは常に一定ですので、2次元的な印刷紙かできません。しかし、印刷対象を紙ではなく粉に変え、インクを接着剤にすることで薄い固形物を作成できます。
この作業を高さを変えて行うことで、3次元の立体物が作成可能です。従来は型を作成してプラスチックなどを流し込んで作成していたフィギアなどは、型を作成することなくコンピュータの3次元データから直接作成することが可能になります。
インクの変化
インクジェットプリンタは紙に顔料を吹き付けて印刷物を作成します。吹き付けるインクを変えるとびっくりするようなイノベーションが可能になります。
本書内で紹介されている技術で驚きなのは、センサーの印刷と臓器の印刷です。
一般的な電子回路は薄いプラスチックに銅で回路を書くプリント基板が主流です。この基板を紙に変えて、銀を吹き付けると紙回路ができあがりです。具体的に何に使えるのかというと、本書では、回路の一部にカーボンナノチューブを入れてガスに反応するガスセンサーなどが紹介されています。
ちょっと聞くと「電気はどこからとるの」という疑問が湧いてきます。電気は何と、環境中の電磁波から得るのです。テレビの電波なら数百ミリワット、無線LANや携帯電話の電波で数十マイクロワット程度の電源を得ることが可能です。
薄くて小さなセンサーは生活を変える可能性を秘めています。
臓器の印刷技術も急ピッチで進んでいます。
現在のインクジェットプリンタが吹き出すインクの粒子は人の細胞と同じくらいの大きさです。生きた細胞をインクの代わりに打ち出すことで、内蔵などの臓器も作成できるということなのです。
ただ、こちらの技術はまだまだ研究が始まったばかりで実用はまだ先のようです。しかし、この技術が実用化されたなら、臓器移植のためにドナーを待つ必要がなくなります。医療界に大きな革新をもたらす技術になることは間違いありません。
大量生産からの脱却
先週のニュースにヒッグス粒子の発見が大きく伝えられました。ヒッグス粒子はモノに質量を与える粒子だそうです。
もし、この粒子をインクジェットプリンターで打ち出すことができたら、無から何かを作り出すことも可能になります。
確実に大量生産の時代は終わりました。これからは一品モノをいかにやすく作れるかが重要な次代になってきます。
パナソニック、ソニー、シャープはテレビ事業が足を引っ張り大きな赤字を計上しました。これは、テレビ製造のために大きな工場を建築するための先行投資が回収できなかったためです。
少ない設備でニーズに合った製品を生み出す。このためにインクジェットは重要な技術になるのです。