学ぶということは「正解を求めない」「試行錯誤する」「自分の頭で考える」ということ
書籍「奇跡の教室」で一躍有名になったスローリーディン授業とエチ先生。本書は、スローリーディン授業を実践したエチ先生こと橋本武氏のエッセイです。
2012年に100歳を迎えるエチ先生の学習哲学、スローリーディン授業への思い、趣味、人生観などが書かれています。
多くの著名人を輩出したスローリーディン授業は、どのような考えを元に生み出されたのでしょうか。
日々積み重ねる
エチ先生は、しょっちゅうテストを実施していました。ただし、抜き打ちではなく、事前に予告してからのテストです。生徒同士で答案を交換して採点する。採点が厳しいかったら、生徒間でネゴシエーションを行う。ただし、採点が何点でも評価は満点。
また、1ヶ月に1回、課題図書を与えて、あらすじと感想を提出させます。これも提出すれば満点。
すべて満点という評価を与えることで、生徒は何を書いても大丈夫だという安心感が発生します。こんなことを書いたら減点されるとか、先生の顔色を意識せず自由に想像力が発揮できます。これがエチ先生の狙いです。
テストや感想文を日々繰り返し行うことで、自分で考えるという力が蓄積されます。また、そこに制約を与えないことが、深く考える力をつながっているのです。
とにかく覚える
スローリーディン授業で題材小説になっている「銀の匙」で、主人公が百人一首を覚えさせられるというエピソードが出てきます。そのとき、実際に百人一首を覚えてやってみるという授業を行ったそうです。
中学校1年生、2年生にとって百人一首に出てくる歌の解釈は難しいものです。内容については大人ななれば自然と理解できるものもあります。
百人一首の授業で大切にしたかったことは、意味がわからなくても、歌を覚えて実際に百人一首を遊んでみるということ。
意味自体が後付けになっても、若く感受性が高いときに覚え、体験することが、次に関連体験を遭遇したときの下地になるのです。
試行錯誤する
エチ先生のスローリーディング授業は最初からうまく進んだわけではありません。準備に一年もの時間を費やし、実際には授業に取り入れてからも、思ったように進まなかったそうです。
生徒にもエチ先生の試行錯誤がつたわり、あえて正解を求めない姿勢が伝わり、自身で考え試行錯誤してみるという姿勢が身についていきました。この繰り返しが、自分の頭で考えてとりあえず行動してみるという習慣を付けたのです。
美しい日本語
本書の内容とは少し離れますが、本書を開いときにまず感じたことが、文字の並びがとても美しいことでした。そして、一文一文がとても丁寧に書いているのが伝わる文体でした。
本書の内容から推測するに、本書は口述ではなくエチ先生が実際に原稿を書き下ろしたのだという印象です。美しい日本語とはまさにこれのことだと思いました。100歳になっても自身の考えを自身のペンで書き下ろすことのすばらしさ。
まだまだ、私などは若輩者。「学び」がまったく足りていないことを痛感したのでした。