クレーマーに負けないチームを作る3つのルール

■はじめに

「日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人」
かなり刺激的なタイトルです。内容もその名に恥じない濃さでした。

本書は、歌舞伎町の某有名ビジネスホテルで働く女性支配人の手記。
著者は、それまで銀座の画廊で働いていた、ホテル運営の全くの素人です。ホテルの支配人公募で採用され、歌舞伎町の支配人になるのです。

歌舞伎町は日本一の歓楽街。さまざまなキャラの濃いひとたちが街を行き交います。
筆者がホテルに着任した当初は、ホテルはヤクザ専用、一般人が利用できる雰囲気ではなかったようです。
「正義は必ず勝つ」という信条で、ヤクザと真っ向から対話して、今ではヤクザがホテルを利用することはありません。

ホテルは現在、とても健全な姿に生まれ変わっています。
筆者はどのような行動で、ホテルを生まれ変わらせたのでしょう。

■クレーマーに負けないチームを作る3つのルール

①真摯に対話する

着任当初は、ヤクザの専用となっていたホテル。
ロビーで他のお客様を恐喝をしたり、フロントに因縁を付けたりと、目も当てられない状況でした。
トラブルが発生するたびに、筆者は自らトラブル処理をおこないました。

どんなに脅されても、真摯に話を聞くこと。そして、優しい言葉を返すこと。
人の怒りは、持続性がないので、いつかは怒りが収まります。
真摯に話を聞けば聞くほど、怒りの持続力は弱くなります。
そして、怒りが収まったあとは、話を聞いてくれたことに対して、信頼を寄せてくれるようになるのです。

お金ではトラブルを完全に解決できません。お金で解決したトラブルは、次のトラブルを呼びます。もちろんそのトラブルもお金以外では解決できなくなります。
一時的な解決は可能ですが、根本的な解決になならないのです。

②スタッフを信頼する

ホテルで起きたトラブルに筆者は、最前線で対応します。
管轄の警察には、支配人が最前線で対応するべきではないと、注意を受けるそうですが、それでも最前線で対応します。
それは、ホテルで起きたことは、すべて自分に責任があると理解しているからです。
そんな、支配人の姿を見てスタッフは、育っていきます。

自分がなすべきことやできること、お客様への対応を筆者の姿勢を通じて学習しているのです。
また、筆者はスタッフを怒りません。怒ると本当のことを隠すようになるからです。
最初は小さなトラブルでも、積み重なり気がつくと手が付けられない大きな問題になることだってあります。
正しい情報を正確に共有するには、怒る必要はないのです。

③地域の一員になる

筆者は街に住む人たちと積極的に交流を図ります。
警察、夜の商売の方々、待ちをさまざまな角度から見守るボランティア、外国からの観光客などなど。
それは、街の特殊性から、そうする必要があるのかもしれません。
しかし根底にあるのは、歌舞伎町が好きで歌舞伎町によい街になってほしいからなのです。

筆者や街の方々の努力で、現在、歌舞伎町はとても居心地の良いクリーンな街に変貌しています。
人が好き、街が好き。
筆者がそういう態度で街や人々と接しているから、ホテルは街の人々に愛されるのです。

■おわりに

心の底から、そう思って行動する。
マニュアル通りに行動するのは簡単です。しかし、マニュアル通りの行動から感動が生まれることはありません。
良いサービスは、スタッフひとりひとりが考えるものだと、筆者は言います。

この歌舞伎町では、どんなサービスを提供するべきなのか、自分の頭で考え、行動することが必要となってくるはずです。
本に書かれているホスピタリティが、いつもいいとは限りません。

心の底からの行動と、やらされている行動では、サービスを受ける側の感動の濃さが違います。
心の底から、良いホテルにしたい、お客様に安らいでもらいたい、と思えるから、怒鳴り散らすヤクザに優しい言葉を投げかけられるのです。

心の底からそう思うには、覚悟が必要です。
その覚悟は。使命感から生まれます。
「こうあるべきだ!」と、思って行動したときに、熱が生まれ、スタッフが共感し、お客様が共鳴し、感動が生まれるのです。

素晴らしい。
これがこの本を読んだ正直な感想。
本書には、クレーマーを黙らせるテクニックは書かれていませんが、クレーマーを熱いファンにするための作法が書かれています。