成功者の告白/神田昌典

事業を興し、成功へと向かう道にはいくつもの地雷が埋まっている。成功が現実のものとなるに応じて、それと同等の困難や障害が用意されているのだ。
本書は、ビジネスの成功に潜むダークサイドをテーマに、起業ストーリーにどのようなトラップが待ち構えているか、物語形式で語られていく。
人生の多くの場面は、固定化されたパターンで進んでいき、当事者がパターンにはまっていることを理解していることは少ない。発生するパターンを理解しておけば、みずからに困難が起きても、うまく対処することができる。

リストラから独立まで

ストーリー

主人公のタクは、転職から半年で関連会社への転籍を言い渡される。上司との確執もあったため、退職し、独立することを決心する。
当初は、漠然とホームページの作成事業を考えていたが、たまたま見かけた、外国人の親子をヒントに国内企業向けの外国語ホームページ作成をメインの業務とすることにした。

ポイント
  • 若いうちのリストラはラッキーと考える。年を取ってからのリストラほど悲惨なものはない
  • ビジネスで成功するために必要なものは、第一にタイミング、第二にタイミング、第三にタイミング
  • 製品(サービス)の成長カーブは、導入期、成長期、成熟期、衰退期
  • 参入するなら成長期を狙う。成長期で得られる収益は、全体の収益の80%程度となる
  • 成長期の商品は市場の食いつきが違う。顧客が自ら商品を買いに来るため、営業が必要ない
  • 安定は、自分で人生を切り開く能力に比例する。しかし、多くの人は、他人が引いたレールの上を走ることばかりに夢中になり、自分自身のレールを走る勇気を失っている
  • 起業で成功するには、既存市場のニッチを狙って参入すること
  • 成功したいなら、偶然に注意する、偶然を偶然と思わない(セレンティビティ)
  • ビジネスのチェックポイントは、(1)その商品が成長期のどこに位置づけられているか、(2)ライバルに対して優位性があるか、(3)ビジネスを継続するための祖利益が確保できるモデルか
  • 祖利益はビジネスにとってガソリンのようなもの。ガソリンがなければ走り続けることはできない
  • 顧客が少なければ、下請けと代わらない。主導権を握れずに相手に振り回される
  • 規模が小さくても、顧客を多く集めることでリスクが分散され、経営安定の助けになる
  • 100人のお客をつくるために大切なのは、1人目の顧客をつくること
  • お客がいないのであれば、無料でもいいから仕事を受注する。100回の宣伝よりも、ひとりの顧客を聞かせた方が営業には効果的

事務所の開設まで

ストーリー

資本金300万円で有限会社を設立する。当初の仕事場は、自宅の一室を利用することにした。
集客には、全くあてがなかったので無料モニターを募り、新規の顧客を集める作戦を実行する。
しかし、思うように顧客が集まらずに四苦八苦するが、マスコミに紹介されたことをきっかけに一気に顧客が増加する。

ポイント
  • 事業に必要なのは、リピートとスピード
  • 資料請求した見込み客には、1度目の資料に反応がなくても、半年程度、成功事例レポートを送り続ける
  • 顧客から依頼があった場合は、即座に対応し、十分な情報を提供すること。そうしないと、見込み客はさまざまなライバルと自社を比べる
  • マスコミを使ったPRは有効であるが、取り上げられ方が十分でない場合は効果が薄い

新事務所へ移転

ストーリー

事業が軌道に乗り、自宅から新たな事務所に移転する。そして、アシスタントと右腕となる営業職を新たに雇い入れる。ホームページ作成サービスは、新規顧客との新規契約が続いていかない限り、安定した収益は生んでいかないい。収益の安定をはかるため、中小企業への海外部門のアウトソーシングサービスを開始する。新規事業は大当たりするも、他社が同様のサービスを開始する。

ポイント
  • 仕事のために家庭があるわけではなく、家庭が幸せになるために仕事がある
  • 会社の理念をしっかり考える
  • 夫の仕事の調子が良ければ良いほど、家庭では奥さんの調子が悪くなる。夫が前向きに仕事を頑張るほど、奥さんは後ろ向きになる
  • 会社の成長期の入り口は、夫婦間で感情のギャップが広がりやすい
  • 家庭がうまくいかないと子どもは、いい子か悪い子になろうとする。いい子は親の言うことを何でも聞き、家庭のヒーローになる。悪い子は、暴力をふるったり、病気になったり、事故にあったりする。そうすることで、家庭の絆を取り戻そうとする

急成長

ストーリー

大手企業との提携で会社は急速な成長をはじめる。しかし、社内に病欠する社員が増え始め、社長であるタクへの批判が、日に日に高まっていく。会社はすこしずつ歯車がかみ合わなくなっていく。
そんなとき、タクの妻であるユキコが離婚届を置いて家を出て行く。

ポイント
  • 会社が成長に向かっているときの社長の性的エネルギーは高くなる。そのときの妻の気持ちはネガティブに振れる。成功する夫に嫉妬するという感情のメカニズムが動作してしまう
  • 怒りは伝染し、強いものから弱いものに伝わっていく(社長や夫が怒りを抱えると会社や家庭が怒りのパワーで満ちる)
  • 怒りのパワーの影響があるからこそ、経営者にはしっかりとした家庭観や哲学が必要になる
  • 社内に病欠が頻発し始めたら、社内がうまくいかなくなっているアラームである
  • 一度芽生えた不信感は気づかぬうちに成長する。何事もなく静かなときほど、破壊のエネルギーは蓄積される

出直し

ストーリー

健全に経営していたつもりの会社だが、資金不足が発覚し、銀行から借り入れでショートの危機を回避する。
社内の雰囲気は、さらに悪化していた。社内の悪い空気を一変するためにさまざまな試みを行い、社内の雰囲気は良い方向に変化していく。しかし、雰囲気が良くなったかわりに、タクの右腕として活躍してきた営業担当が不満を持って退職する。
退職した営業担当によって隠されていたスタッフの新たな開花し、業務はさらなる成長を開始する。
退職した営業担当の差し金で、顧客情報すべてが社内から消去されてる事件が発生するが、タクのリーダーシップで危機を乗り越え、会社はさらに一体感が増していく。
精神的な成長をしたタクは、家を出て行った妻ユキコを迎えにいく。今までの非を謝り、再度、一緒に暮らしてほしいと懇願する。
そして、タクは、家に帰ってきたユキコと子どもたちと幸せな家庭を築くのだった。

ポイント
  • 創業4年程度の会社は、マネジメント上の問題に直面する。このときに大切なのは、数字ではなく機能するマネジメントチームを作ること
  • 年商8億程度の会社が、売上10億を目指したとたんに、さまざまな問題が噴出する。これは、経営のシステム化ができていないからである
  • 社内に問題を抱えると顧客からのクレームの質が変わってくる。製品の品質のクレームではなく、顧客自身が大切に扱われていないというクレームになる。このときの怒りをしっかり受け止めないと、顧客離れが急速に進む
  • 能力がない社員のクビを簡単に切る会社は、不景気になると社員がさっさと辞めるていく。そして、社内には奪う文化が根付いてしまう
  • 会社を機能するチームにするには、4階層の構造が必要だ。4階層目に怒りの解放、3階層目に母親の愛、2階層目に父親の威厳。第1階層に経営のシステム化
  • グッドアンドニュー。6人くらいのチームで24時間以内に起きたいいことや新しいことを1分程度話す。話が終わったら周りの人は拍手する。これで、チーム内の雰囲気がだいぶ変わる
  • 承認の和。社員の誕生日に周りの社員が「○○さんと一緒に働けて良かった。なぜなら・・・」とその人の話をする。言われた社員は自分の居場所を認識し、働く意欲が増加する
  • クレド。リッツカールトンが導入している社員の行動指針。社員はクレドを基準にして自身の行動を決定する
  • 会社が成長するには、起業家、実務家、管理者、まとめ役という役割が異なる役者が必要になる