機械との競争/エリック・ブリニョルフソン

私が1990年に所有していたパソコンのスペックは、メモリ容量が1Mバイト、ハードディスク容量が20Mバイト、モデムの通信速度が2400bpsでした。現在、所有しているパソコンのメモリ容量は8Gバイト、ハードディスク容量は1Tバイト、通信環境はフレッツ光ネクストで、通信速度(下り最大)が1Gバイトです。

約20年で、メモリ容量は4千倍の増加、ハードディスク容量は52万倍の増加、通信速度は44万倍高速化されています。
毎日少しずつ環境が変化していると、変化の大きさに気がつくことはありませんが、20年まとめて振り返ると、その変化の大きさに驚かされます。

コンピュータは私たちが仕事をする上で欠かせないものですが、私たちの仕事を奪うライバルという捉え方も出来るのです。現に多くの業務は、人の手からコンピュータに置き換わっています。これからもコンピュータで置き換え可能な業務は増えてくるでしょう。

本書のテーマは、「コンピュータの進化で消失した雇用は取り戻せるのか?取り戻せるならば、どのような方法があるのか?」です。

チェス盤の法則

私たち現代人は、コンピュータの進化によって雇用消失の影響を受けています。しかし、毎日少しずつ変化しているので、雇用減少したという実感がありません。そして、縮小した雇用市場で多くの人材が職を奪い合っています。コンピュータの進化が続く限り、雇用減少の流れは激しさを増します。
本書は、コンピュータの進化は、さらに進むと予言します。そして、その進化は爆発的に加速するそうです。筆者は、この爆発的に進化する過程を「チェス盤の法則」と呼んでいます。

チェス盤を発明した男が王様にチェス盤を進呈したことろ、王様はたいそう喜んで好きな褒美を取らせる約束をしました。男は、最初のマス目に一粒のコメ、二つ目のマスにその倍の二粒のコメ、3つ目のマスはさらにその倍の四粒・・・最後飲ますまでコメを置いてそのコメの合計を賜りたいと申し出たそうです。

王様はたやすこととだと承知したが、実際には、倍、倍とただ置いていくだけで、米粒は途方もない量になった。最終的には、米粒の数はニの六十四乗マイナス一粒になったのである。これは、積み上げればエベレスト山より高い。一杯食わさたことに原を立てた王様はオトコのクビを刎ねてしまった。

最初は、微小な増加でも積み重ねていくと、突如として爆発的に増加する瞬間が発生します。コメ粒はチェス盤の真ん中に来多段階から、爆発的の増加して行きました。コンピュータの進化もその過程にあり、今まさに「チェス盤の真ん中」に位置しているのです。
この2〜3年で、クラウドの一般化、ビッグデータの進歩、スマートフォンの一般化、常時接続の低価格化が一気に進みました。この流れは、爆発的に加速し、わたし達の仕事も消失していくのです。

貧富の差は広がるのか

私たちの仕事は、ただ減少するだけではありません。持つものと持たざるものの格差も拡大していきます。本書では、3つの視点から持つものと持たざるものの比較をしています。

対決その1)「スキルの高い労働者」対「スキルの低い労働者」

スキルの低い労働者は、今後さらに苦戦を強いられます。

技術革新の結果、高いスキルを持つ労働者に対する相対的な需要が高まる一方で、スキルの低い労働者に対する需要は減少し、場合によっては途絶えている。

対決その2)「スーパースター」対「ふつうの人」

ここで言うスーパースターとは、ミュージシャン、スポーツ選手、大企業の経営者などを指します。

たった一人の人間の才能や知見や意思決定が、一国の市場を支配することも可能になっている。いや、それどころではない。グローバル市場を支配することもありうる。その一方で、優秀ではあっても偉大ではないライバルは、自国市場からさえ押し出される羽目に陥っている。

一部の才能のある人にチャンスは限りなく広がっているが、失敗すると容赦なく落とされる。大変に非情です。

対決その3)「資本家」対「労働者」

資本家は持つ資金で労働者を雇用し、労働者から作り出される製品で富を生み出していました。これまでは、資本家と労働者が持ちつ持たれつの関係を保っていました。

テクノロジーが労働者に置き換わる場合、資本財の所有者が手にする所得の割合の増加は、労働者の手にする割合の減少を意味する。

今までは、資本家の資本は、老当社へ投資されていましたが、これからはテクノロジーに投資されます。資本からみて、もの言う労動者は機械に比べると、面倒な存在です。機械と労動者の対費用効果が等しい場合、資本家が選ぶ選択は、ごく自然です。

持たざるものは、これからさらに持つチャンスが減少するのは、火を見るより明らかです。持たざるものが救われる方法は有るのでしょうか。

どうすれば救われるか

コンピュータは、自らアイデアを考え、自ら物を作り出すことはできません。コンピュータが我々にまさることは「記憶し、再生すること、そして計算すること」です。人間はハードディスク一台分の記憶はできません。また、瞬時に円周率を何万桁計算することもできません。
「記憶し、再生すること、そして計算すること」を自分自身の得意分野にすることは大変に危険です。どんな天才でもコンピュータに勝つことはできません。新しい何かを考えだす力こそが、現代人に必要な資質であると本書は主張します。
では、新しいことを考えだす人材を多く輩出するためには、どのようなことが必要なのでしょうか。
本書では、以下のことが必要だと主張しています。

  • 教育への投資(教育者の質の向上)
  • 起業家精神の育成
  • インフラ・研究への投資
  • 法律・税制の緩和

本書は、雇用減少の閉塞的な状況を悲観していません。これからの時代を変えていくのは、新しいアイデアを考えることだと主張しています。

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インターネットが発達した現代では、情報に事欠きません。大切なのは、情報をどう扱うかです。ひとりで考えるより、多くの人とアイデアを共有してアイデアのブラッシュアップを図り、アイデアをどんどん素晴らしいものに昇華させることが現代では可能です。

3Dプリンターがあれば、安価でプロトタイプが作成出来ます。アイデアを公開して共感を得ることが出来れば、クラウドファンディングより必要資金を得ることもできます。
コンピュータと競争することなく、人間が得意とする分野でコンピュータを有効活用する。これが現代人の成長する新しい常識なのです。