生きる悪知恵/西原理恵子

「ああ、まいったなぁ、サイバラさん凄いや」
これが本書を読んだ正直な感想。今年もいろんな本を読んだけど、自分の底の浅さを再認識させられてしまった。
本書は、人生相談にサイバラさんが答えるという形式。仕事、家庭、男と女、性格、トラブルと五つの章から構成されている。

「うぅ、その視点から言えるのかぁ」という解答が散りばめられている。名言の宝庫のような一冊。

オレが考えるに、人間がトラップに陥るコースっていうのは3つある。
ひとつ目は、自分に対する評価が自分と他人で大きなギャップがあるとき。二つ目は、他人に過大な期待しているとき。三つ目は、問題点を漠然と捉えていて具体的にしていないとき。

サイバラさんは、感覚的にここを理解できているんだなぁ。タイトルでは「悪知恵」とされているけど、本書内のサイバラさんの意見は、悪知恵なんかではなくて、生き抜くための知恵だと思うんだよね。

例えば「電車の中で携帯電話を注意したら殴られました」という質問に対して、サイバラさんは、「人の器」の話を持ってくるわけ。

ただ、強い正義感を貫くためには、それに見合った武器が必要です。そこがちょっと欠けていたんじゃないかな。正義感をプロテクトする武器、例えば柔道とか空手とか、そういうのを習ってみてはどうでしょうか。向こうも相手を見ますからね。

一般論では、「正しいこと言っているのに殴るなんてとんでもないですよね。被害届を出しましょう!」的な回答になるんだろう。でも、あんたは人としての器が小さいから殴られてしまうのよぉ。って言い切れるのは凄いし、同じ質問をオレがされても、そこまでは言い切れないな。

考えてみれば、世の中理不尽なことだらけ。どんな場所でも、声の大きいヤツが自分の意見を押し通す。それに対抗するには、無言でもプレッシャーをかけられる威圧感を体全体からにじませるしかないんだ。

詐欺に簡単に引っかかるヤツと引っかからないヤツの差は、明らかに人としての器の差だと思うんだよね。ひとは本能的に自分に危害を与える人間を避ける傾向にある。「こいつを騙したらひどい目に合いそう」と思わせるヤツは絶対に騙されない。それは、強そうな見た目かも知れないし、理知的な言動なのかもしれない。

ひとは自分が置かれている場所や経済状態を起点に考えを進めていくから、どうしても近視眼的な答えしか出てこない。本来はどうあるべきか、本当はどうだったのかという根本的なところが抜けてしまうのだ。

サイバラさんの解答は、その視点が根本的だ。今すぐ行動ができて、コストもゼロ。そんな回答が多い。ただ、生きていければそれでいいんだよね。それだけで幸せ。サイバラさんの解答には、厳しさと愛が満ちている。

「ハッ!」とした本書内の名言をピックアップ。

女の人ってポイント制だから、ずーっと何も言わなくてもポイントは貯まっていて、最後の何気ない一言でカードがいっぱいになって、激怒して別れたり刺したりするんだから。

これは「彼女のアソコが臭いんです。はっきり言うべきでしょうか」という問いに対しての解答の一部。女性の本質を鋭くとらえた言葉だと納得。

でも、あなたの場合、次を見つける努力をしたほうがいいですね。スペアっていうかバックアップはとっておいたほうがいいですから。
私の周りのもののふの女たちは「3チンポ持て」と言っています。「いいですか、1チンポではいけません。それがなくなったらどうするんですか」「必ず2本はバックアップを持っておくように」って。泳がせておいてもいい、1年に1回くわえるだけでもいいんです。必ずバックアップを持っておいてください。

これは、「妻子のあるひととの関係をやめるべきか続けるべきか」の解答。なんにしてもリスク管理は重要だと。

夫婦は親友であり戦友でないと成り立たないと思うんだ。つまりフェアでないと。どちらかが負担をかけるばっかりじゃ何十年も持たないよね。言ってみれば結婚てさあ、フェアトレード、等価交換じゃないかな。

これは「なかなか結婚してくれない彼を決断させるには」の解答の一部。これは真理だな。でも、そんな夫婦は世界にどのくらいいるんだろう。ほとんどの旦那さんは家畜、社畜のひとり2役をそつなくこなしています。

本書のメッセージって、次の3つだと思う。ひとつ目は、表面的なものだけで判断しない(ひとには気持ちや懐具合がある)。二つ目は、プライドより飯を食うほうが優先。三つ目は、自分以外の他人に過渡な期待をしない。
どれも本質的なことなんだけど、なかなか出来ないよね。こういう感覚って何度も何度も痛い目を見て覚えていくもんなんだ。

世の中ってうまくできていて、死なないようになっているんだ。それがわかってしまうと、答えなんか簡単に出せる。それがわからないひとは、この本を読めばいい。

サイバラさんがここまで卓越した意見を言えるのは、その生い立ちから得た教訓なんだと思う。サイバラさんの半生は、以下の書籍で読むことができる。