ニッポンの書評/豊崎美香

書評は愛しい本へのラブレター、時に愛は流血騒ぎを起こしたりもする。

小説を書くたび、爆笑問題太田光さんに「読んでくれ〜」とラブコールされる人気ライター豊嶋美香さん。本書は、著者が「本が好き!」で2008年7月号から2009年11月号まで連載した「ガター&スタンプ屋ですが、なにか?わたしの書評術」を新書にまとめたものです。

ガター&スタンプとは、イギリスの小説家ヴァージニア・ウルフが書評を言い表したもの。ガターとは「本のスジを抜き出す」作業、スタンプは「可・不可のスタンプを押す」作業を指しています。つまり、ヴァージニア・ウルフは、書評という作業をつまらない誰にでもできる職と一笑に付していたのです。

供給サイドでは不要される書評でも、需要サイドの読み手にとって書評は、購入判断の重要な指針です。供給と需要の間に立つ書評家。彼らはどんな思いで書評を書いているのでしょう。

書評家の職務

本書で著者は、書評という職務について次のように述べています。

書評が果たしうる役目といえば、これはすばらしいと思える作品を一人でも多くの読者にわかりやすい言葉で紹介することです。つまり、作品と読者の橋渡し的存在。

書評が果たす役目は、「購入する」というプロセスを助けるためにであり、「購入しない」というプロセスを助けるためではないのです。

貴様!返り血を浴びる覚悟はあるのか?

アマゾンレビューやブログなどで、一方的に作品を批判する記事が増えていることを著者は嘆きます。

批判は返り血を浴びる覚悟があって初めて成立するんです。的外れなけなし批評を書けば、プロなら「読めないヤツ」という致命的な大恥をかきます。でも、匿名のブロガーは?言っておきますが、作家はそんな卑怯な”感想文”を今後の執筆活動や姿勢の参考になんて絶対にしませんよ。そういう人がやっていることは、だから単なる営業妨害です。

著者は、本書内でいくつかの他者書評の実文章を掲載し、めった斬りにしています。著者が偉いのはここで終わらないところ。実際に著者も同じ作品の書評を書き、書評はこうあるべきだという姿を見せるのです。

書評はラブレター

書評は、著者や作品への愛があってこそ。
本書は書評という美しく厳しいラブレターの正しい書き方をレクチャーしているのです。

目次

第1講 大八車(小説)を押すことが書評家の役目
第2講 粗筋紹介も立派な書評
第3講 書評の「読み物」としての面白さ
第4講 書評の文字数
第5講 日本と海外、書評の違い
第6講 「ネタばらし」はどこまで許されるのか
第7講 「ネタばらし」問題 日本篇
第8講 書評の読み比べ―その人にしか書けない書評とは
第9講 「援用」は両刃の剣―『聖家族』評読み比べ
第10講 プロの書評と感想文の違い
第11講 Amazonのカスタマーレビュー
第12講 新聞書評を採点してみる
第13講 『IQ84』一・二巻の書評読み比べ
第14講 引き続き、『IQ84』の書評をめぐって
第15講 トヨザキ流書評の書き方
対談 ガラパゴス的ニッポンの書評―その来歴と行方

ニッポンの書評 (光文社新書)

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