経済大国インドネシア/佐藤百合

わたしが幼年期を過ごした昭和40年後半から50年前半は、日本全体に活気があって、とても良い時代でした。
ピンクレディー田中角栄オイルショック、新幹線、ソニーファミコン、、、
「あの時は楽しかったなぁ」と甘酸っぱい郷愁の思い出がよみがえってくるのです。

わたしが住んでいる街は、かつての新興住宅街でした。どんどん田んぼが埋め立てられ、どんどん家が増えていき、毎学期転校生がやってきました。
急激にで子供が増えたため、私の母校は学校の教室が足りなくなり、プレハブ教室が何棟も作られていったのです。一学年が10クラス以上あって、学校全体では2000人以上の子供が在席しているという超マンモス校でした。

そんな母校も現在は、一学年が3クラス程度だそうです。ひとクラスの生徒数も少なくなっています。かつて一学年500人在席した学校も、現在は100人程度。
私が住む街は確実に老齢化し、街の活力を失ってています。

老齢化しているのはわたしの街だけではありません。日本全体が老齢化しています。
日本が高度成長期を達成し、世界経済の主役だったのは遙か昔の話。今の日本は、過去の栄光を誇りに意味なく威張っている退役軍人のようです。今の日本に対して輝く未来を感じることはできません。

そんなわたしは、「今インドネシアが熱い」と勝手に思っています。
退役軍人のような日本に辟易としている私は、秘密裏に日本脱出計画を進めいるのですが、「じゃあ、どこの引っ越すのよ」と調べていくると、一番よさげな国がインドネシアなのです。

インドネシアは、人口が世界第4位。2億4千万人の人々が、赤道付近の島々で暮らしています。天然資源を豊富に持ち、これからの経済発展がとても期待されている国です。
インドネシアというとわたしたち日本人が最初に思い浮かべる方が、スカルノ大統領の第3婦人であった「デビィ夫人」です。
かつてのインドネシアスカルノスハルト政権という独裁国家が続きましたが、2004年に大統領選挙が行われ、完全な民主主義国家となりました。
さまざまな独占や癒着が排除され、現在は健全な民主主義国家として、最も経済成長が期待できる国として熱い注目が集まっているのです。

そんなインドネシアの今を伝える書籍が「経済大国インドネシア」です。
本書の著者は、アジア経済研究所で長年インドネシア経済を見続けてきた佐藤百合さん。
経済を中心にインドネシアの歩んできた道、これから進むべき道が簡潔にまとめられています。新書ですのでページ数も250ページ程度と軽く、論旨もわかりやすいので、経済本が苦手な方にもオススメできます。

本書から読み取ったインドネシアのポイントは3つに整理されるのではと思います。

1)人口ボーナス

人口ボーナスとは、生産年齢人口(15歳から64歳まで)が総人口に占める割合が上昇していく局面のことをいいます。
日本の人口ボーナスは1990年に終了しています。今、最も元気な国である中国と韓国も2015年くらいに人口ボーナスは終了。これからが期待されているベトナムとマレーシアは2020年前後に終了します。
一方、インドネシアは2030年まで人口ボーナスが続きます。
単純に考えると、人口ボーナスが伸びるということは、経済成長が期待できるということです。雇用の確保など、成長にはさまざまな要因が関係してきますが、働き手が多く扶養者が少ないのは大きなアドバンテージです。

2)多様性

現在のユドヨノ政権は「フルセット主義」という国内のインフラ整備を主軸に全産業が平等に成長できる政策をとっています。
一部、特化した産業を作るのではなく、その地域に合わせた産業を推し進めるという政策です。
何かを特別視しないという政策は、インドネシアの多様性から来るアイデアではないかと考えます。
インドネシアは多くの島から成り立つ多島国家で、異なる人種が異なる言語を話し、異なる宗教をもっています。
日本では異端は排除される運命にありますが、インドネシアは多様性を認識し、尊重し合うことを推進の原動力にしているのだと思います。

3)親日

本記事を書いているのは、2012年度のAKB総選挙があった日です。
AKBの特色は各地域にSKE、NMBなどのユニットを作っていることと。実はインドネシアにもJKT48という公式のAKBファミリーが存在します。
首都ジャカルタを中心に結成され、現在30名程度の女の子が存在しているようです。
インドネシアは日本の文化を好意的に受け入れてくれます。これは、かつてのODAや現在の輸出入での経済的なつながりもさることながら、スマトラ沖地震での日本の援助などを筆頭にした民間の交流も大きく影響しているようです。

かつて日本は、工業製品を前面に押し出して世界マーケットを席巻していきました。しかし、インドネシアには前面に押し出す工業製品はないようです。
現在は天然資源が輸出の中心となっていますが、勤勉でマジメな国民性ですので、海外から製造業の生産拠点がやってくれば、そのワザを自分たちの技術に昇華していく智恵は十分にもっていると思います。
これからインドネシアが世界経済にどのように食い込んでいくのか、資源と労働力を十分にもってい注目して見ていきたいと思います。

目次

第1章 新興経済大国への満ち
1 世界の中のインドネシア
2 BRIICsは幻か
第2章 勃興する人口パワー
1 大規模で若い人口
2 多層・多極型の国内市場
3 労働市場と人材
第3章 民主主義体制の確立
1 大転換
2 ユドヨノの10年
第4章 フルセット主義Ver2.0の行方
1 戻ってきた「見える手」
2 何が経済成長か
3 フルセット主義Ver2.0の政策課題
第5章 経済テクノクラート
1 バークレイ・マフィアの末裔たち
2 財政改革から官僚体制改革へ
3 戦う中央銀行
第6章 産業人 ー 表舞台に出てきた「ブルジョアジー
1 政治とビジネスの「新・二重機能」
2 表舞台にてできた華人起業家たち
3 企業グループの再編
第7章 日本とインドネシア
1 つながる文化、つなぐ人々
2 広がるビジネスチャンス
3 新しい日本=インドネシア関係に向けて
終章 21世紀の経済大国を目指して