ビジネスで失敗する人の10の法則/ドナルド・キーオ

これまで、じつに多くの優良企業が決定的な次期に重要なリスクを取らなかったために、打撃を受ける結果になっている。一時的に低迷しただけで後に回復した企業もあるが、転落して消えていった企業も多い。1980年代だけでも、フォーチューン誌500社のうち230社が消えている。1900年代初めの大企業100社でみれば、いまでも生き残っているのはわずか16社にすぎない。資本主義の霊園に、「リスクをとることなく死亡した企業ここに眠る」と書かれた墓碑がどれだけあることか。

本書は、元コカコーラ社長のドナルド・キーオ氏が「ビジネスで失敗するに為に必要な10ヶ条」書き下ろしたものです。
「ビジネスで成功する方法はわからないが、失敗する方法は明らかである」という著者が自身の豊富な経験から、ビジネスで失敗する方法を豊富な事例をまじえて語られます。
タイトルでは「10の法則」とありますが、本書で実際に記載されている法則は11個です。
最初の法則が最も重要とされ別扱いになっているので、本書に掲載されている法則は「最重要法則+10法則」です。

本書で最重要されている法則は、「リスクをとるのを止める」です。
ビジネスがうまくいくのは、「リスクをとる」からであり、リスクをとらない安全なビジネスが大成功したという話はあまり聞きません。

ひとは大なり小なりの失敗と成功を繰り返して、日々の生活を行っています。何らかの成功の裏には、必ず何らかの犠牲が含まれています。
犠牲の多くは、時間またはお金です。
サラリーマンならば、自身の時間を費やすことで、事業を動かして相当の成果を得ます。
費やした時間は、無駄に使って成果を得ることができなかった失敗の活動と、有効に使って成果を得た成功の活動があります。

成功体験から本能的に学習できるのは、成功した活動の再現性です。
再現の手法は経験として頭の中に蓄積されたり、文書化してマニュアルとして保存したりします。
ここで重要になるのが、成功の再現確率です。
活動の内容が比較的安易で成功の再現確率が高い場合、その活動に対して盲目的になりってしまい固執するようになります。
失敗した活動の多くは、捨てられてしまい再利用されることはありません。
その成功活動で得た利益に納得してしまうと、それ以下の成果を得ることに恐怖を感じるようになるのです。
やり方を変えなければ、同じ成果(報酬)を得られるのですから、方式を変えないという選択は当然なのです。

成果量を増やすにはやり方を変えるか、活動量を増やすしかありません。
収入を増やすという考え方であれば、就職先を変えるか、働く時間を増やすか、奥さんにも働いてもらうなどの選択肢があります。
就職先を変えるというのは、大変に大きなリスクですし、100%成功するとは限りません。また、奥さんが働きに出ると家庭内の作業がおろそかになり、生活に支障を来す恐れが出てきます。
現状を変えたくないという心理は、人間そのものの本能であり、意識的にリスクをとるいうことは大変に困難なのです。

リスクをとらずに活動していると、時間が経つにつれ得ることができる成果の量は徐々に減っていきます。
それは、外部要因が変化するからです。
例えば、営業職であれば景気が悪くなったとき、従来と同じ活動時間・活動方法では、同じだけの成約金額を得ることは困難でしょう。
外部要因の変化に合わせて、本来はリスクを取っていくべきなのですが、それに気がつかず、また、気がついていてもできないのが人情なのです。

リスクをとるのは容易ではありませんが、普段からさまざまなことに疑問を持ち、疑問の答えを考え、考えたとおりに行動してみるということがリスクをとることだと私は理解しています。
毎日とる小さなリスクが積み重なって、大きな成果を生み出すのだと思います。
大きな投資をして大きなリターンを得ることも立派なリスクテイクですが、小さなリスクを積み重ねることも立派なリスクテイクです。

以下、本書で書かれた失敗する方法10ヶ条を列記します。

  • 柔軟性をなくす
  • 部下を遠ざける
  • 自分は無謬(むびゅう)だと考える
  • 反則すれすれのところで戦う
  • 考えるのに時間を使わない
  • 専門家と外部コンサルタントを全面的に信頼する
  • 官僚組織を愛する
  • 一貫性のないメッセージを送る
  • 将来を恐れる
  • 仕事への熱意、人生への熱意を失う。

本書の序文で、ウォーレン・バフェットは著者の人柄を次のように書いています。

ドン(ドナルド)・キーオと一緒にいると、登りのエスカレーターに乗っているように感じる。私という人間と私の仕事を楽観的にみてくれるので、もっと目標を高め、もっと自分を信じ、周囲の世界を信じるようになる。ドンとつき合っていると、いつも何かを学べる。信じがたいほど力のある経営者なのだ。優れた経営者がとりわけ偉大な成果をあげるとき、何かを自分で処理するのではない。周囲の人たちを動かして達成する。そしてドンは、世界中のあらゆる性格の男女の気持ちをつかみ、この人が成功できるように支援しようと思ってもらえるのである。

本書から学べる最大の教訓は失敗する方法ではなく、ひとがひととして生きがいをもって働く方法です。
しっかりとリスクをとり、ひととして正しい行為をやっていれば幸せになれる。そして、ビジネスマンとしての成功が待っているということなのです。