プロ弁護士が利用する7つの思考コンセプト

プロ弁護士の思考術 (PHP新書)

プロ弁護士の思考術 (PHP新書)

■はじめに

弁護士は、常に問題に立ち向かい、その解決のために様々な知恵を巡らせています。
「プロ弁護士の思考術」本書は、キャリア豊富な国際弁護士が、現場で鍛え上げた思考術を解き明かしている書籍です。著者は主に、大手日本企業の海外活動で発生する諸問題の解決を担当していた。本書で登場する思考法は、「ナントカ法」的な思考メソッドといわれるものではなく、社会生活の中で普段から利用できる実践的な思考法です。
企業活動における法務活動は、慎重な対応を怠ると億単位の罰金や賠償金が発生する。特に国際的な企業活動は、この傾向は顕著に表れています。混沌とした状況の中で、自らの立場を優位かつ安全にするには、どのような思考が必要になるのでしょうか。

■7つの思考のコンセプト

(1) 情報を集めきるまで行動しない

不十分な情報や思い込みで行動すると、新たな事実が判明した際に、方向修正が難しくなります。情報が揃うまであえて行動しないことが、解決の最短ルートとになる場合もあります。
必要な情報を揃えて、解決の手順を具体的に考えることが、主導的に問題に関与し、問題解決に方向付ける最良の手段です。

(2) オプションの発想をする

「肯定か否定か」、「愛か憎か」、「真か偽か」などの2分法は、非常にわかりやすい反面、隠れている複雑な情報を隠す欠点があります。問題は「やるかやらないか」ではなく、どのように改善するのかです。
オプションの発想は、状況の変化に応じた最善の解決方法を持つ考え方です。オプションを発想するときは、常識にとらわれることなく、網羅的にざまざまな状況を想定することが大切です。

(3) 人の本質を見る

自身の立場や状況に臆することなく、疑った目でいちど状況を見渡してみます。
「自分が支配できることは何か。自分が取りえる手段は何か」を考え、取れる手段があるのなら、迷わず実行してみます。(考えても何もしなければ、状況が変わることはない。)
時代が変わっても、人間の本性が変わることはありません。ひとの判断や行動の基準は、常に利害打算にあるのです。
問題を直視する方法は、次の3つがあります。

  1. 余分な付加物、装飾物を取り除き、裸の事実を見る
  2. 自分の解釈を加えず、物事の外形・形態のみを見る
  3. 物事を分解してみる
(4) いったんは正しいと考える

ものごとには「唯一の正解」はありません。反対の意見に接した場合でも、その意見を、いったんは正しいものとして、自分の中に取り込んでみます。反対意見を、あからさまに批判するのは自信のなさの表れです。他人の立場に立ち、共感できるひとが長期的にはものごとを効率的に処理でひとです。

(5) 意思決定は先延ばしする

因果は極めて精妙にできています。ですので、私たちは未来の予測をすることができません。私たちの世界は常に偶然に支配されているのです。
「大丈夫だろう」と考えるよりは、「何が起こるかわからない」と考えるほうがより合理的です。現実はいつも予想外でですが、”偶然は頻発する”と知るだけで、手のうち方が違ってきます
後戻りできないような意志決定は、できるだけ先延ばしにしましょう、決定を遅らせることができれば、その間により多くの情報を入手し、より適切な決定をすることができます

(6) 主体的に考える

ものごとは感情的になると泥沼化し、解決の糸口が見つからなくなってしまうことがあります。感情は捨てて目的を達するために、最も有効で時間と費用のかからない手段をとるべきです。
また、ひとは容易に他人の意見を信じる傾向があります。会話していても、相手の言うことに根拠があるか否かを考えながら応答する人はいません。ですので、世間では根も葉もない話が一人歩きをしたりするのです。
考えが主体的かどうかは、最低限次の2点を満たさなければなりません。これを満たさない場合は、単に状況に流されているだけで、主体的に考えてると言うことはできません。

  1. 関連する事実を確認する
  2. 自分の判断の根拠を吟味する
(7) 遠くを見る

将来の正確な予測はできません。現在の状況から、近い将来どのようなことが起こりえるのかを思いめぐらせ、ヒヤリハットの状況に気づけば、ほとんどの事故を予防することができます。
問題の見通しをつける際は次の3つを考えておく。

  1. 関連情報を収集し、有利な点と不利な点を分析する
  2. 事件の全体の構造をつかむ
  3. 対策を考え、落としどころを見極める

この 「情報収集、構造把握、対策立案」の手順は、交渉、紛争処理、危機管理に広く応用することが可能です。

■おわりに

本書で紹介されている考えは、特殊な方法や難しい方法ではありません。机上で、情報をノートに書き連ね、考えられる手段をいくつも考え出すだけでよいのです。現代のビジネスは、決断スピードが重要です。私たちは問題の解決を考えるとき、解決の速度を速めようと焦ってしまい、外部からノイズを受けがちです。
このような状況で出た解決策は、ざまざまな思惑が入り交じって、失敗するか、何も変わらないかのどちらかに落ち着くでしょう。このような場合の問題解決は、「手段」だけに心を奪われてしまい、本来の考えるべき「目的」を忘れてしまっているのです。

目的は何か。
解決はどのような方法か。
本書の7つのコンセプトをもとに、時間をかけて、じっくりと考えることができれば、問題解決は難しくはありません。

プロ弁護士の思考術 (PHP新書)

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