ジョセフ・ヨアキムは、70歳を過ぎて創作活動を始めた画家である。たまたま、ヨアキムの絵を発見したカフェのオーナーに見いだされ、その才能を世間に知らしめる。
カフェのオーナーがヨアキムの絵に惚れ込み、積極的な告知を行ったからこそ世間の評価を得ることができた。
「つくる人」と「見いだす人」がつくり出す新しい場が、これからの社会を変えていくことになる。
ビオトープとは
情報の流れが持つ課題
生活者がネット上で情報を共有する圏域のサイズは、どんどん小さくなり交換されている情報の密度は濃厚になっている。
これからのマーケティングは、この場所にピンポイントで情報を流し込むことが重要になってくるが、その場所を特定することは困難である。
- 情報を求める人が、どの場所に存在しているか
- そこにのどうやって情報を放り込むか
- その情報にどうやって感銘を受けてもらうか
記号消費の終焉
映画業界の凋落
- 1990年代までは、マニアックな映画でも情報がうまく流れる仕組みができあがっており、うまく機能をしていた
- 1980年代、ビデオの普及で、映画業界は大バブル期を体験した
- 2000年代、DVDの普及期を迎え、ビデオ期の再来を夢見た映画業界は、大量の映画を買いあさった。結果、映画の配給権が高止まりした
- ビデオレンタル店が採用しているDVDのPPTシステム(配給会社がレンタル店にソフトをリース。貸し出しの発生で課金が発生)は映画業界に大きな主益をもたらさなかった
- レンタルビデオ店が、「1本100円」と価格破壊路線に走り始めている
配給権の高止まりは、中堅の配給会社の倒産を招いた。従来は、マスメディアにキャンペーンを張っていれば、大ヒットしていたメジャー作品も期待薄になっている。
マスメディアの幻想を信じた映画業界は、みずからバブルを拡大させ、みすからバブルを破裂させたのである。
これは、映画協会だけでなく、音楽業界もCD、iTuneの発展過程でバブルとその崩壊を体験している。
アビエント化の現実
アビエント化とは、電子化の普及で「利便性があがった」「使い勝手が良くなった」などの意味を持つ。しかし、アビエント化は、コンテンツそのものの価値や意味を変える結果となった。
- アビエント化は、コンテンツの流通形態から、コンテンツのあり方そのものまでが180度変化した
- アビエント化の狭間に発生したバブルで、コンテンツ業界は見果てぬマス消費の幻想を追ってしまった
- マス消費ではなく、ピンポイントでコンテンツを購入するビオトープを探し当てて、そこに情報を放り込む戦略を取るべきだった
- コンテンツ業界は、自身の戦略ミスを棚に上げ、市場縮小の原因を、ネットの法律違反などを妄言のように繰り返した
消えた記号消費
- みんなが購入しているから、自分も購入するというスタイルの消費は消えかけている
- 記号消費とは、商品そのものではなく、商品が持っている社会的な価値(記号)を消費すること
- 生活者の多くは、社会全体から自らの居場所が消えている。生活者は、自らを見守ってくれる「まなざしの欲求」、誰かとつながっていたい「つながり願望」を欲している
- まなざしの欲求、つながり願望は、消費市場にも色濃く反映されている
- 消費の情報をマスメディアで入手し、服装や持ち物といった「具体的な表層性」によって自らをパッケージングする「記号時代」は終わった
記号消費から新しい消費のスタイルへ
- 消費するという行為の向こう側に、他者の存在を認識し、その他者とつながり、承認してもらうというあり方が、これからの消費のスタイルになる
- 「機能消費」。商品が持っている付加価値を購入するのではなく、商品そのものの機能を必要として購入するスタイル
- 「つながりの消費」。その作り手や売り手がつくる製品やそのストーリーに感銘を覚え、商品を購入する。または、その商品を持つことで、他の人と感動を共有できるという消費のスタイル
マスメディアの崩壊により、21世紀は「機能消費」と「つながり消費」に二分された新しい消費スタイルが幕開ける。
シェアの時代へ
記号消費の終焉は、でものを持たないというライフスタイルも生んでいる。
クラウドコンピューティングは、ビジネスに必要な多くの紙をインターネット上に保管し、どこでもつながるネットワークからモバイル端末を利用して取り出すことを容易にした。
また、ものを所有せずに第三者とシェアするというスタイルも、近年盛んに行われるようになった。消費さえも不要である時代。
「つながり」を求める場は、消費ではなく何かを行うという行為へと変移している。
キュレーションの時代へ
2010年代の消費の本質は
- <商品の機能 + 人と人とのつながり>
- <情報収集 + 人と人とのつながり>
情報が流れるということは、情報をやり取りする人と人との共鳴が発生して、その共鳴を求めて人が集まってくる。共鳴や共感が発生するには、コンテキストの空間が必須であって、単なる検索結果だけでは共鳴や共感は発生しない。そこには、必ず人が介在する必要がある。
情報の真贋の見抜き方
インターネット上には多くの情報があふれかえっている。
これらの情報の真贋を見抜くことは簡単ではないが、情報の発信者の真贋は見抜くことはできる。
テレビでコメンテーターが発するコメントは使い捨てであり、過去の発言にまでさかのぼって、批判されることは少ない。
ソーシャルメディア上での行動は、ほぼ透明であり、過去の行動や発言で信頼度が変わってくる。
今では、特定の人から発せられる情報流通は、圧倒的な有用性を持つようになっている。
キュレーターとは何か
キュレーターとは、インターネットというノイズの多い海から、価値の高い情報を拾い上げ、特定のコンテキストを付与することによって、新たな情報を生み出すという存在ある。
フォロワーはキュレーターから発せられる情報に注目し、マスメディアから得ていた情報よりキュレーターより得た情報を重要視する。
まとめ
- ソーシャルメディア上には、いくつものビオトープが形成されている
- ビオトープに接続して、さまざまな情報を提供するキュレーターの存在
- キュレーターからさまざまな情報を受けとるフォロワーの存在
- グローバルなネットワーク上に、無数のビオトープが形成され、さまざまな情報をやり取りしている
- マスメディアを経由していた従来の広告は消滅する
これからのマーケティングで重要なのは、将来出現してくるソーシャルメディアを軸とする情報の流路がどのように形成されるか。そして、その流路に対して、中長期的な戦略を持って対応できるかである。
本書内に登場する人物、製品、サービスなど
本書では、特徴的なエピソードが多く登場する。以下は、登場するエピソードの主人公たちである。
ジョセフ・ヨアキム(画家)
エグベルト・ジスモンチ(ミュージシャン)
ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い(映画)
サバイバル・オブ・ザ・デッド(映画)
青春の殺人者(映画)
永山則夫連続射殺事件
秋葉原連続殺傷事件
田中眼鏡本舗(眼鏡店)
清貧の思想(書籍)
フォースクエア(WEBサービス)
マルコビッチの穴(映画)
シャガール(画家)
ヘンリー・ダーガー(画家)
アロイーズ・コルバス(画家)
彼女が消えた浜辺(映画)
TED(WEBサービス)
キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)
- 作者:佐々木 俊尚
- 発売日: 2011/02/09
- メディア: 新書