新ソーシャルメディア完全読本/齋藤徹

ソーシャルメディアは、「パソコン時代」、「インターネット時代」に続く、IT業界における第3の波であるといわれている。
ソーシャルメディアで、友人との絆、共感、心の豊かさといった、従来、人間が培ってきた感情のつながりが、重要なものとしてとらえられるようになってきている。

ソーシャルメディアを理解する3つの事例

  1. 食べるラー油のブームは、ソーシャルメディア上で半年前から予兆が観測されていた
  2. ドロリッチなう」とつぶやくと反応するTwitterのロボットは一般ユーザーによって作成された
  3. Twitter上でソフトバンクについてつぶやくと公式のカスタマーセンターから応答が届く

これらの事例は、時代の変化やビジネスの変革を予兆するものである。

フェイスブックのすごさ

フェイスブックの現状
  • ユーザー数5.5億人(2010年11月現在)
  • ユーザーの50%が毎日アクセスするアクティブ会員
  • 131カ国中110カ国でトップシェアのSNS

日本でのアクティブユーザーは200万人程度であるが、2010年秋以降さまざまなブログで紹介されるようになり、ユーザー数は順調に増加している。

日本にはビジネスパーソン向けのSNSがない
  • 終身雇用制が崩壊した日本において、人脈ネットワークは貴重になる(実名制であることが重要)
  • 日本には実名制のSNSは定着していないが、メリットがあると理解されれば、普及は急速に進む
  • フェイスブックが普及しない場合、ミクシィが取って代わるSNSになることは考えにくい(実名制への移行が困難)

上記のことから、日本においてもフェイスブックビジネスパーソン向けのトップシェアSNSとなる可能性が高い。

ソーシャルグラフとは

バナー広告はクリックされない
  • バナー広告の全クリックは50%は、6%の利用者で行われる
  • 68%のユーザーは、バナー広告をクリックしない

ユーザーは、あふれる情報と時間に追われバナー広告をクリックする心の余裕がなくなっている。また、クリック後に表示されるであろう広告事態にも魅力を感じていない。
ソーシャルメディアの浸透に伴い、ネットユーザーの行動様式に変化が生じてきている。従来、情報や製品を探すときは、Googleなどの検索エンジンを利用していたが、Twitterで友人が推薦したり、アルファブロガーが高い評価をした情報や製品を重要視するようになっている。

ソーシャルグラフとは

ソーシャルグラフとは、家族や友人などの信頼関係とサークルやコミュニティの同好関係で、構成される人と人の関係性を表すデータのことである。ソーシャルグラフを利用し、嗜好を推測することで、ユーザーが必要としている情報や製品の情報を的確に提供することが可能になる。

ソーシャルグラフを提供するSNS

フェイスブックを筆頭に多くのSNSは、ソーシャルグラフを外部ユーザーに提供している。(近い将来、フェイスブックソーシャルグラフの利用に課金することが予測される)
今後、ソーシャルグラフを利用した販促活動が、大きなマーケットを形成することは間違いない。国内SNS事業者(ミクシィYahoo!DeNA連合、サイバーエージェントなど)も交えたソーシャルグラフの覇権争いは激しいものになることが予測される。

マーケティング3.0の時代

  • マーケティング1.0 − 企業が一方的に「どのようにして販売するか?」
  • マーケティング2.0 − 企業が顧客に対して「どのようにして継続購入してもらうか?」
  • マーケティング3.0 − 企業は生活者に「どのように(製品開発や販売などに)協力してもらうか?」

江戸時代の三河屋は、「ご用聞き」からさまざまな情報を仕入れ、その家庭の事情に合わせた個別の販売活動をしていた。町で会えば挨拶や雑談をし、愛想が良く、町内の誰からも好ましく思われる。三河屋は町内の情報ハブとして機能していた。
これは、日本文化の底流にある「主客一体」という思想である。これからの時代は、日本人が得意とする生活者参加型である「マーケティング3.0」が世界のスタンダードとなっていく。

生活者を味方につける

消費者の協力をビジネスにつなげる

商品を企画する段階から、消費者の意見を取り入れ、製品開発を行うことが、今後の主流のスタイルとなっていく。
ソーシャルメディアを活用して、生活者からの支援を最大限に生かす場を構築する。

  1. 製品企画 − 生活者の声を傾聴し、新しいニーズの発掘。フェイスブックTwitterで生活者の声の収集や対話を行う
  2. 商品販売 − 生活者に商品に関する情報提供、交流の場を提供。気づきの提供や購入予定者の背中押しをしてもらう
  3. 顧客サポート − 販売後も、購入者同士で交流し、助け合いが行えるコミュニティを提供する
  4. ブランディング − 顧客との信頼関係を高め、企業や製品のファンになってもらう
生活者に共感してもらうには
  1. 自社の価値を見直す
  2. 顧客に対する貢献姿勢を明確にする
  3. 社会に対する貢献姿勢を明確にする
  4. 信頼される企業になる
  5. 生活者と対話・交流する

1. 製品企画

事例
  • 無印良品体にフィットするソファ − オンラインコミュニティを活用。生活者の投稿アイディアを投票で製品化するかを決定
  • スターバックスの改善アイディア − オンラインコミュニティにて商品やサービスに対する改善を募集。開始から2年で10万件のアイディアが投稿された
良い製品の条件
  1. 基本価値 − 基本的な機能が備わっているかどうか。差別化が難しい
  2. 機能価値 − 独自機能の付加。生活者の声を集めて付加した機能は他社との差別化になる
  3. 情緒価値 − 感覚的な価値。提供者の熱意や姿勢からファンになっていく
コラボレーションが他商品のポイント
  1. 全く知識や経験のない生活者を対象にしても失敗する − ブランドのポリシーやスタイルを崩してまで意見を採用する必要はない
  2. 生活者はボランティア精神で参加する − 報酬のある活動は、企業やブランドへの関心の低い人も集まる
  3. 知識集約のメカニズムを最適に使い分ける − あくまでも意見として取り入れ、最終的な判断は企業側でくだす

2. 製品販売

ソーシャルコマースとは

ソーシャルコマースとは、オンラインコミュニティにおけるクチコミを利用した新しいスタイルのEコマースの総称。ソーシャルコマースにおいて、ソーシャルメディアは重要な役割を果たす。

  • 従来の購買行動 ー (1)興味(attention) → (2)関心(interest) → (3)検索(search) → (4)購買(action)
  • ソーシャルコマースの購買活動 − (1)興味(attention) → (2)関心(interest) → (3)検索(search) → (4)購買(action) → (5)共有(share)

ソーシャルコマースで生活者は、商品の使用体験をネット上に書き込み、多くの生活者と共有する。

コマースサイトをソーシャル化する機能

潜在的な需要を喚起する】

【購入意思を後押しする】

  • 同好関係を創出する質問 − 消費者の嗜好を可視化する
  • 商品レビューや評価 − 購入した人しか書き込めないレビューや評価
  • 商品に関するツイート − Twitterからその商品について書かれたコメントを抽出して表示
  • ステッカーやスタンプ − サービス利用を促進するためにステッカーやスタンプを利用者に提供する
  • チャット − チャットで製品購入の相談が可能

3. 顧客サポート

事例

米国の航空業界は、Twitterを利用して動的な顧客サポートを実践している企業が多い。また、業界では顧客との直接対話を恐れ、ネット炎上を起こした事例もある。

  • コンチネンタル航空 ー 離陸に失敗する事故が発生。乗客がTwitterで実況中継。コンチネンタル航空の発表よりも正確な情報を提供する。コンチネンタル航空Twitterでの実況を無視し、都合の良い説明をしたため、メディアから正確な説明を求められ信頼を失う。
  • サウスウェスト航空 ー 離陸後の機体に穴が開いているのが発見された。乗客が一斉にツイートするも、サウスウェスト航空が直ちに事態説明と機体の早期検査、乗客への返金を発表する。その対応の早さから、大きな混乱に陥ることはなかった。

ー家電販売BestBuy ー 社員が顧客からのツイートに反応して製品のQ&Aを行っている。ほぼリアルタイムに質問に回答できるので、高い顧客評価を得ている。

2つの顧客サポート

上記事例から、2つのサポートが必要であることがわかる。

  1. 素早く正確な情報提供 ー 問題が起きても隠蔽しようとせずに、素早く正確な情報を提供する
  2. リアルタイムな顧客サポート ー Twitterなどの書かれた情報をキャッチしてすばやく回答する

4. ブランディング

情報伝播を改善する3つの方法
  1. ブランドのファンを増やす
  2. ブランドの共感度を上げる
  3. 影響力の強いインフルエンサーと交流を深める
クチコミを劇的に促進する4つの仕組み
  1. ブランドを含むツイート数とポジティブ率の比較
  2. ブランドページへのリンクを含むツイート数の比較

ソーシャルメディアが導く未来

  • 1995年からの10年で情報量は400倍になっている。これから時代に求められるのは、情報の量ではなく、情報の質、つまり「最も信頼できる情報は何か」、「誰から得られる情報なのか」である。
  • Googleは体系化された知識、つまり形式知の整理を行ってきた。フェイスブックなどのSNSは、明文化できない暗黙知が集積されている。現在のGoogleから暗黙知を引き出すことはできない。
  • スマートフォンの普及により、オンラインとオフラインの世界がつながれようとしている。Eコマースのマーケットは6.7兆円であるが、リアル小売業のマーケットは135兆円で20倍もの差がある。今まで、オンラインの世界からリアル小売業への影響は少なかったが、これからはリアル小売業に大きな影響を与えていく。