明日は、ぼくらもホームレス/今日、ホームレスになった

「今日、ホームレスになった」は2006年発刊の書籍です。
この強烈なタイトルに強く惹かれ、購入しました。

本書は、13名のホームレスを取材し、彼らがホームレスになった理由や日々の生活を取材し、取材したホームレスの語り口調でつづられています。
その内容は、淡々と書かれていますが、読み進むうち、どんどん暗くやるせない気分になってしまいます。

本書内で紹介されている13名のホームレスのうち11名は、40歳以上で企業の経営者または管理職を経験しています。
当たり前に生きていれば、ホームレスになる必要がなかったひとばかりです。
一般人であったはずの彼らは、なぜホームレスにならねばいけなかったのでしょう?
本書からわかるのは、ホームレスは決して特別な存在などはなく、明日は我が身ということなのです。

なぜホームレスになったのか?

本書内で紹介されているホームレスのひとびとの多くは、リストラが発端になりホームレスになっています。
リストラにより、転職の失敗や家庭の崩壊、借金などによる生活苦などの問題を抱えることになりホームレスに転落しているのです。

共通して見られる傾向としては、年齢制限により就職活動が不調になり、家族の理解を得ることができずに、家庭内で孤立をしていくというパターンです。
家庭内の孤立が離婚や蒸発を引き起こし、ひとりになって働く気力が失せ、ホームレスになっていくのです。
中年男性は年を重ねるごとに、仕事以外の生き甲斐が少なくなってきます。会社内での生活が人生のほとんどを占め、家族はほったらかしになってしまいます。

仕事をして収入を得ることが、家族に対して威厳を保つ唯一の方法だったのに、それを失ったのですから、プライドは打ち砕かれ自暴自棄になってしまうのでしょう。
また、家族もそんな彼らを単なる収入源としか見ていませんでしたから、機能が果たせなくなった彼らを見放すのは、当然の成り行きなのです。

大手鉄骨メーカーの副部長まで務めながら、リストラからホームレスに転落した桑畑氏は、ホームレスなった現在を次のように語っています。

大阪は東京よりホームレスのおっちゃんが多くてね。まだスーツを着て働いていたときは梅田や難波でそういう人たちを見て、「ああはなりたくない」と思っていたけど、簡単になってしまった。何が悪かったんだろうと思いますよ。

どのように生活しているのか?

ホームレスの人々が、日々どのように生活しているのかは、大変に気になるところです。

本書内に登場するホームレスのほとんどは、都内の駅を徘徊し、ゴミ箱に捨てられている雑誌やマンガを古本屋に売って日銭を稼いでいます。
収入は、一日に約100冊程度集めて3000円程度です。
買い取り金額は、一冊約30円程度。アダルト誌の場合はちょっと高くて、一冊100円程度になるようです。
あとは、日雇い労働です。
多くの日雇い労働は、肉体的にはきついものが多いので、年をとってくるとなかなか参加できません。また、この不況下ですので、定員が少なく、定常的に日雇いで収入を得るのは難しいようです。
多くのホームレスは何らかの仕事をして、収入を得ています。ホームレス全体の約5割が1万円から5万円程度の収入があります。5万円以上の収入があるホームレスは約2割です。

食事は、お金があればコンビニ弁当やファストフードを購入します。お金がない場合は、ボランティア団体が行っている炊き出しに参加したり、コンビニやファストフードの廃棄物をあさります。
ホームレスが廃棄物をあさると周辺が汚れてしまうので、コンビニやファストフード中には、廃棄する食料に水をかけて食べられない状態にしてから、廃棄する店も多いようです。

日々の宿泊は、公園や河川敷に段ボールやビニールシートで家を作り暮らすひと、カプセルホテルやドヤ街の安宿を利用するひとなど、さまざまです。
ホームレスにもコミュニティが存在し、その中でもヒエラルキーは存在するようです。社会のヒエラルキーからドロップアウトしたにもかかわらず、ホームレスのコミュニティ内でもヒエラルキーがあるのは皮肉なものですね。

人間は順応性が高い動物であることは間違いありませんが、誇りや意地までもなくなってしまうのは悲しいことです。

こういう暮らしをしていると、恥という感覚が日に日に失せていくね。
ゴミ箱に手を突っ込んで雑誌拾いするのだって。何とも感じなくなるんだ。ボランティアがやっている給食も、始めは情けなくて、新聞で顔を隠していたけど、今はもう何とも思わないものな。

どのような援助があるのか?

ホームレスには、ほぼ共通して同じ問題を抱えています。それは、住所を持たないということです。
住所を持たないと、履歴書に記入できる連絡先がありませんでの、就職する際に圧倒的に不利になってしまいます。
また、住所不定となり、住民票が削除されていることもあるようです。

増加するホームレスの問題を解決するために平成14年に「ホームレスの自立支援等に関する措置法」が制定されました。
本法は、ホームレスの自立支援のために国や地方自治体が総合的に行う施策です。
具体的には、①安定した就業機会や住居の確保、②健康診断の実施、③ホームレスになる恐れのあるひとの相談、④宿泊場所の一時提供、⑤日常生活品の支給などを行います。

平成23年度の調査では、全国のホームレス数は約1万人。平成19年の調査では1万8千人でしたので確実に減少しています。
ホームレスの大多数は大都市に集中しており、地方都市にいるホームレスはごくわずかです。

埼玉県 497
千葉県 462
東京都 2,762
神奈川県 1,685
東京都 2,762
静岡県 209
愛知県 644
京都府 279
大阪府 2,500
兵庫県 341
福岡県 442
沖縄県 136

※調査数100名以上の都道府県

大都市圏にホームレスが集中するのは、収入源となる日雇いの仕事や雑誌拾いをする駅が多いということ、ボランティアによる給食の提供や残飯を得る店舗が多いのが理由と考えられます。

東京都では自立支援の第一ステップとしてホームレスの一時保護を目的とした「緊急一時保護センター」、第二ステップとして就労の手伝いを行う「路上生活者自立支援センター」を設置しています。
このような公的機関の援助を利用して、社会復帰できるホームレスは限定的のようです。

将来をどう考えているのか?

本書内に登場するホームレスの多くは、再就職を希望しています。働く意欲は大いにあるようです。
ただし、再就職には多くの問題があります。
まずは、前出の連絡先となる住所がないということと、求人の多くは、年齢制限があり申し込みすらできないという問題です。
また、申し込みができる求人があったとしても、働き口は限られていますので、将来的に安心して働ける環境を得るのは非常に困難です。

衝撃的な内容でした。
ホームレスになった彼らは、決して特別な存在ではありません。

ひとは、目的を失うと同時に気力も失います。
本書内に登場するひとびとは、仕事に命をかけて生きてきました。
確かに、家族をおざなりにしていたのかもしれません。
多くの日本男子は、家族に対して感謝の気持ちを伝えることがとても下手です。また、自分が家族を食べさせているという自負が高いことも理解できます。

本当に、ピンチになったとき、助けてくれるのは家族以外に考えられません。
残念なことに、本書に登場するひとびとは、家族が味方にはなってくれませんでした。
彼らの家族が、叱咤激励していたら、違う結果になったになったことでしょう。

この不安定な時代、会社に人生を預けるという行為は大変に危険です。
不慮の事態に備え、家族とともにどのように生きるのかを普段より、充分に話し合う必要性を痛感しました。
私たちは、明日のホームレス予備軍です。